朝のぬくもり(テニスの王子様): 「俺はもう出るぞ。まだしばらく寝ているのか?」 着替えもほぼ終わった状態で、手塚はまだベッドの中にいる不二に声をかけた。 7時10分。 まだこの場所を出るには十分すぎるほど早い時間だ。 それでも手塚はいつも学校に行く時間と同じ時間に起きた。 そして休みだというのに同じ時間に出かける。 久しぶりに迎える二人の朝なのに、情緒がないなぁと不二は思った。 「ん・・・あぁ、今日は駅前の屋根付きにいくんだっけ?僕はもうすこし寝ているよ。練習は一人でしたいしね」 枕に顔をうずめながら、少しだけ斜めに顔をあげて不二が答える。 流し目で誘うような視線を向けたつもりであったが、あいにく手塚は鏡を覗き込み、上着をはおるところであった。 「そうか。まぁ、寝過ごすなよ?」 そんな視線にも気が付かずに淡々と注意をして、手塚は用意を完了した。 「ちぇ・・」 気づかれもしない自分の流し目に不二はふてくされて再び枕に顔を完全に埋没させた。 「何か言ったか?」 「なんでもありませーん!」 枕に顔を埋めたまま、くぐもった声で不二が答える。 「すまんな」 耳元で手塚の声が響き、頬にかるいキスと耳たぶを甘噛みされる。 「っ?!」 がばっとおきると、手塚はすでにベッドから歩き始めていた。 「それじゃな」 かるく後ろでに手を振ると、手塚は何も言わずに部屋を出て行った。 バタンとドアが閉まる。 静かな部屋。 手塚がいたとしてもとても静かであったが・・・。 「あぁゆう態度だけはしっかりしてるんだもんなぁ。いつもすごくそっけないのに、ポイントだけ抑えられちゃうから、ますます好きになっちゃうじゃないか」 飛び起きて、枕に手をついたまま不二は一人でぼやいた。 「ふぅ・・・」 ボスンと、そのまま再び倒れこみ、まくらに顔をうずめる。 「手塚のにおいがするー」 一晩ここに手塚が一緒にいたと思うと、それだけでついつい頬が緩んでしまう。 ひとつの枕を二人でつかったので、左側が手塚の使った方。 すでに手塚はいないが、なんとなく手塚と一緒にいるような気分になって、不二はココロが幸せで満たされた。 ふとんにくるまれば、それもまたなんとなくぬくもりが残っているような気がして、不二はいつまでもごろごろとしていた。 「つぎはいつ一緒に寝られるんだろう?」 まぶかにもぐったまま、天井を見つめてつぶやいてみる。 ようやく作ってみても、二人の時間なんてそうそうできるものでもないのだ。 ぼんやりとしていると、おいていかれる不安がいつも不二を襲う。 「っと!」 一通り、手塚のぬくもりを堪能したので不二はがばっと起き上がった。 ベッドから降りると、軽く体をのばした。 少し腰が痛むのは練習のせいか、それとも昨晩のせいか。 なんとなく、体をのばしているうちに軽いストレッチになってしまう。 「まぁ、運動部だしね」 自分でついつい言い訳をしてみる。 体をほぐすと、軽くシャワーを浴びる。 シャワーから出てくると、ちょうど10分前。 出るにはいい時間だ。 「さて、僕も練習にでようかな。手塚はもちろん、ほかのメンバーにも負ける気はないんだから」 スッと目を細め、いつもの不二の顔に戻る。 外に出ると、非常によい天気だった。 「手塚は屋内練習場か。そうすると、僕はストリートかな。日焼けはちょっといやだけど、たまにはいいよね」 誰に言うともなくそうつぶやくと、不二は雑踏の中に姿を消した。 FIN 2003 01/16 written by ZIN 1994-2003 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved