「あ・・・」
あまりの衝撃に体が震えた。
入学したての俺はそこに線の細い少女のような少年を見た。



初めての出会い

不二菊小説第一話




中学に入りたてのせいか、その少年はホームルームの時間も、授業中のほとんども窓の外をずっと見つめていた。
たぶん、頭は悪くないんだろう。
いや、むしろ俺よりはだいぶいいかな。
最初とはいえ、授業の問いにもずいぶん簡単に答えてたし。
まぁ、ずっと余所見をしていれば、当てられるのは当然だけどね。
ただ、声をかけるのはすごく大変っぽい。
何人かが遊びにいこうとか、週末の予定を相談していてもあまり興味がなさそうだ。
特に部活とかもやる気配はないみたいだし。
俺も何かやる予定はなかったから、ただ無駄に仲間連中と遊んでた。
学校からは禁止されていたけど、ゲーセンにも結構行ってたし、特に親からは注意されなかったので、泊りがけで遊びに行ったりもしていた。
でも・・・。
その遠くを見つめる視線はずっと気になってたんだ。
いったい何をみているんだろう?って。
でも、すぐに俺は忘れちゃってた。
その存在があまりにも儚すぎて、その視線の先が自分とは決して交わることなんて無いと決め付けていたから。
あの偶然がなければ。

半年も経った頃だろうか。
夏休みも終わりをつげ、体育祭も終わると特に何もやることがなくなる。
俺は旧知の大石に誘われ、テニス部に入部していた。
部活なんてめんどくさいし、体育会系なんて先輩後輩の関係だけでうんざりだからヤだったんだけど、大好きな大石の粘り強い勧誘にとうとう折れてしまった。
先輩がすでにいなくなってしまったからというのもあったんだけどね。
3年の先輩が抜け、2年の先輩もやる気を失って、ほとんど参加していない。
やる気があるのは大石がものすごく信頼をおいている手塚という奴らしい。
ちょっと悔しいけど、俺が他の連中とだいぶ遊びほうけている間に、ずいぶんそいつと親密になってしまっていたみたいだ。
それを邪魔するというわけでもないけど、なんとなく納得がいかなくてテニス部に入ってやった。
大石のたっての頼みでもあるしね。
ということで、テニス部への入部届けを放課後に書いていたときだった。
秋も深まっている時期だったので、夕日がそろそろ暗くなり始め、目立っちゃうけど電気でもつけようかなと思っていたときだった。
「ん?誰かいるの?」
ガラガラと、教室の扉が開き、入学式以来気になってその視線の先をつい見つめてしまう少年が自分に声をかけてきた。
「あぁ、不二くんか、ちょっと入部届けを書いていてね」
「入部届け?」
ちょっと小首をかしげるしぐさが非常に愛らしい。
と思った。
いつもの儚げというよりは、抱きしめたい愛おしさというか。
「うん、親友の大石って奴に誘われててね。テニス部なんだ」
まともに話をしたのはコレが初めてだったが、結構きちんと話をすることができた。
なんとなくほっとする自分が不思議ではあったが。
「へぇ・・・テニス部ね」
その目がいつものにこやかなものとは違った光を帯びたような気がして、ちょっと気になった。
「不二くんもテニス・・・やるの?」
「あぁ、少しね。弟がだいぶはまっていて、僕もよく相手をさせられるんだ」
そういって彼はふっと笑った。
苦笑というよりは、自嘲のようであったが。
「不二くんは部活とかやらないの?」
「そうだねぇ。あんまり部活とかに興味がないからかな。一生懸命やるのが性に合わなくてね」
「あー、なんかわかる気がするよ。俺もホントはめんどくさいんだけど、大石にずいぶんしつこく誘われててさー。3年生もいなくなったらしいし、2年生もほとんどこないって話だから、付き合い程度に入ってみようかなって」
なんとなく一気に自分の事情をしゃべってしまう。
勝手に自分のことをべらべらとしゃべってしまって嫌われたかなと思ったけど、思ったこととはだいぶ違う反応が返ってきた。
「菊丸くんは、大石くんのことが大好きなんだね」
「へ?」
「いや、そう思っただけだよ。ついでに何か部活の中でありそうだから自分も入るんじゃないかな?」
「えぇっ?!なんでわかるの?」
「あ、あたってたか。大石くんの名前を出すときの菊丸くんは目が輝いているからね。なんとなくそう思ったのさ。そして、嫌がっていたにもかかわらず、突然入部することに決めたのは、きっと何か部活の中に気になることが起こり始めているからじゃないかなぁってね」
ふふふ。と、彼はわらった。
その顔は何もかもわかっているように見える反面、なんとなく彼になら見透かされてもいいかなと思ってしまった。
「へぇー!すごいねー!あ、そうだ、せっかくだから、不二くんも入らない?テニス部!」
「へ・・・?僕が?」
突然の申し出に彼はまたきょとんとした表情に戻る。
彼もこんなに表情が結構変わるものなんだと変な納得をしてしまう。
「そう!テニスやったことがあるっていうしさ。特に部活もやってないんでしょ?」
「よく知ってるね」
スッと目を細められる。
「や、別に悪い意味じゃなくてさ」
別に悪いことをしているわけでもないのになぜか弁解をしてしまう。
彼の視線にはなんとなく抗えないものを感じてしまっていた。
「部活の入部ってどうやればいいのかを先生に聞いてみたら、ウチのクラスで入っていないのは菊丸と不二ぐらいだっていわれて。それでどうせなら一緒にできればいいかなーってねっ!」
ひらひらと書き途中の入部届けを見せてみる。
ウチの学校はめんどくさいのか、入部届けに複数名を記入することが可能である。
クラスで同じ部活に入るのに、何枚も処理するのがめんどくさいのだろう。
変なところに合理的らしい。
「あぁ、そうか、入部届けってこうなっていたんだね。初めて見たよ」
彼はとんでもないことを口にする。
「えぇっ?!だって、入学式のときに一緒に配られたじゃん?おんなじ部活はなるべくまとめて出せよー!って」
「あぁ、そんなことも言っていたかな。あんまし覚えていないけど。ちょっと別のこと考えていたから」
「ふーん、そんなものなのかな。ま、いいや、んで、どうする?まだしばらく考えごとを続けてみる?」
ニッっと笑うと、彼もフッと笑った。
「いいよ。テニス部。せっかくだからね。たまには楽しんで何かをしてみるのもいいかもしれないな」
彼はちょっとだけ遠い目をしてから、すぐにこっちに視線を戻した。
「よっし!決まりっ!っと」
早速俺は入部届けに彼の名前を書き足した。
「・・・えっと、不二・・・なんだっけ?」
「しゅうすけだよ。1周2周の周に、助けるの助」
「りょーかーい♪周助っと」
「さんきゅ」
「いえいえーん。コレからよろしくね。不二くん」
「不二でいいよ。菊丸くん」
「それじゃ、俺も英二でいいよ。なんか俺、苗字で呼ばれるの苦手なんだよねー」
にゃははと笑ってしまう。
「はいよ。それじゃ、英二、明日からよろしく」
スッっと出された手を握り返し、二人のテニス部入部を決めた。
ここから始まったのだ。
僕らの奇妙な関係は。

Tobe


2003 08/18 written by ZIN
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