膳 「悟浄のご飯って、結構おいしかったんですねぇ」 八戒は布団から起き上がりながら、自分の目の前に置かれたお膳に手をつけそういった。 「いまさらナニ言ってんのヨ。俺はお前と出会う前は一応自炊してたのヨ?」 そういって、悟浄はウインクして見せた。 冗談抜きに結構おいしい。 八戒はそう思った。 これなら自分がそんなにがんばって作ることもなかったな。 そう考えてしまうほどであった。 八戒はここ2〜3日風邪を引いて寝込んでいた。 悟浄の家に転がり込んでから、そのお礼にと一般的な家事はほとんどを八戒がこなしていたため、悟浄にご飯を作らせることなど一度もなかったのである。 それが八戒が寝込んだというので、悟浄が久しぶりにご飯をつくってみるとこれが結構おいしかったというわけで・・・。 「いや、お前がつくってくれるんだと楽だからな。メシを自分で作るのってめんどくせぇし」 自分の料理をほめられながら、素直な意見を言う悟浄。 本当にそのとおりの理由なのだろう。 その瞳に特にうそはない。 八戒は口をもぐもぐさせながら、目で少し笑った。 「ん?どうだ?多少は元気になってきたか?」 そういって、悟浄は自分の手のひらを八戒の額に当てる。 「んー、もう熱はほとんど下がっているようだな。昨日の夜が一番熱がひどかったからなぁ。このまま死んじまうかとヒヤヒヤしたぜ」 ケラケラと悟浄が笑う。 「ご飯を作る人がいなくなるから、ヒヤヒヤしたのですか?」 八戒が少し意地悪な質問を返す。 「ふん・・・ま、その辺は自分で考えな。そういう憎まれ口がいえるようになったということは十分元気になったってことだな。明日のまでの分の家事は俺が自分でやるからまたあさってからよろしくな」 そういって、八戒がきれいに食べ終わったお膳を片付け始める。 「あ、僕が片付けますよ・・・」 と、手を伸ばした八戒の手をさえぎり、悟浄はさっさとお膳を持ち上げてしまう。 「明日までは俺が家事を全部やるって言ったろ?」 「でも・・・」 「でももなにもあるか。病人はしっかり休んでせいぜいおとなしく寝てな。動かれてまた倒れられたらこっちがたまらん」 「心配してくれているんですね」 「・・・家事をこなしてくれるやつがいなくなるとめんどうだからな」 視線をそらして言うのは照れ隠しであろうか。 「ありがとうございます」 「礼を言うところか?」 「違いましたか?」 「いや、かまわねぇ。んじゃ片付けてくるからしっかり寝るんだぞ」 「わかりました。おやすみなさい」 そういって八戒は布団にもぐった。 「んじゃ、片付けたら一稼ぎ行ってくるから。帰りはいつもどおりだから多少遅いだろうが、心配せずに寝てろよ」 「はぁい」 バタン。とドアの閉まる音。 八戒は布団にもぐってうれしそうに微笑んだ。 FIN 2003 04/01 written by ZIN 1994-2003 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved