暖かさとその存在:(最遊記:八&浄)

「ぶえっくしょい!!」
「本格的に風邪ですか?」
宿に着いても、悟浄はくしゃみを繰り返していた。
「大丈夫だって。なんとかは風邪を引かないっていうだろ?」
「自分で言っちゃいますかねぇ」
八戒は苦笑したが、確かに悟浄が風邪を引くのは珍しい。
自分はしょっちゅう風邪を引いているのに、なぜか理不尽だと思ったことすらあるぐらいなのだ。
そんなに体調を崩す人ではないはずなのに・・・。
そんなことを思いながら、その日は部屋を別々に宿をとった。

翌朝。

「おはようございます。よく眠れましたか?悟浄?」
「・・・うあーーー、スマン、八戒、やつらに今日は動けね−って言っといてくれー」
明らかに風邪を引いているとわかるがらがら声。
いったいどういう寝方をしたら、こうなるのか。
「昨日はあのまま寝たんでしょう?どうしてこんな状態に?」
「んー、それがわかれば苦労はねーよ。ホントにしっかりと寝たんだけどなー」
「鬼の霍乱ってやつですかねぇ。悟浄も人並みに風邪を引くと言うことがわかって安心しましたよ」
「なんだそりゃ?」
「だって、あの雨の時から、悟浄って僕の前で風邪を引いたことないんですよ?」
「あれ?そうだっけか?」
「気をつかってくれてたんですか?自分が体調悪くなると僕が心配するからって・・・」
「うぬぼれるなっつーの。おりゃ元々身体が資本だからなー」
「あれ?肉体労働はごめんなんじゃなかったんですか?」
「ちがわー。俺が倒れたりしたら、俺に会えない全世界の美女に申し訳ないだろーが」
「あぁ、そういうことですね」
くすくすと八戒が笑った。
「それだけ冗談が言えるなら、大丈夫みたいですね。一応薬を宿の人からもらってきましょうか?」
「いや、別にいいや。そんなに長引かねーだろうし。それより、お前にそばにいてほしいな。さすがに疲れた上に風邪まで引いちまうと、しんどいワ」
「疲れが?」
「あ・・・。いや、ちっと最近すげー疲れててさ。さすがにやつらの前で『疲れた』なんて言うのかっこわるいじゃん。やつらの前では弱みなんてみせたくねーし」
「ふぅ・・・そうですか」
「なんでお前が落ち込むんだよ?!」
「いや、結構長い間一緒にいるのに、疲労がたまっていることに気がつかない自分がちょっと悔しくて・・・」
「別にいーんじゃねーの?隠してたわけだしさー」
「僕の疲労には悟浄はすぐに気がつくのに、僕は悟浄の疲れに気がつかないのがなんとなく悔しいんですよ」
「そんなもんなのかねぇ?」
「ま、僕の勝手な言い分なので、悟浄が気にすることはないですよ。それじゃ、しばらくここにいることにしますね。何かしましょうか?ご飯を作ってくるとか・・・」
「とりあえず、飯はいーわ。もう一眠りするから、それまで邪魔が入らないようにここにいてくれ。あと、おきたら飯を食うから、とびっきりうまいのをよろしくな」
「はいはい、わかりました。とりあえず彼らが入ってこないようにがんばりますね」
にっこりと笑う八戒の笑顔がなによりも悟浄の力になっていた。
「わりぃな。んじゃ、お休み・・・」
よほど疲れているのか、すぐに寝息を立て始める。
「こんなに疲れていたのですか・・・。もう少し僕にぐらいは正直に話してくれてもいいのに・・・」
窓の外はきれいに晴れていた。
暖かい陽気が部屋の中も暖かくする。
八戒も悟浄を見つめながら、幸せにその暖かい日差しの中で眠りに落ちていった。
二人の空間は永遠にも思える幸せな空間であった。

FIN

2003 06/09 written by ZIN
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