新年(最遊記): 「あけましておめでとうございます」 変わらない日常のある日、年が明けた。 「うい、おめでとー♪」 相変わらず、年越し用に用意されたそばは食べつくされ、次の夜食に食いつく者。 「おめっとさん」 ハイライトをくゆらせながら、適当な挨拶を返す者。 「ふん。なにをもってめでたいというのだ」 我関せずという態度をとりながらも、しっかりと話を聞いている者。 それぞれがそれぞれらしさとともに返す返事。 自分で用意した茶を配りながら、八戒は幸せそうな顔をしていた。 「今年もよろしくです」 「あぁ」 「んー」 「なに改まってんのヨ」 「・・・いえ、こうして今年もみなさんと一緒に旅ができるんだなぁと思いましてね」 にこにことしながら茶を飲む八戒。 それにつられて悟浄が苦笑いをする。 「なるべくなら、とっとと終わらせたいものだがな」 三蔵は新年だからと増発された深夜配達の新聞に早速目を通している。 「俺は結構楽しいけどなー。この旅行」 悟空は素直にそう感じているようだ。 「旅行とかゆーな、この馬鹿サル」 いつもどおりの返答を返す悟浄。 「おや、悟浄はそんなに楽しくないですか?」 悟空が喧嘩を買う前に八戒がその矛先を曲げる。 「・・・いや、別に面白くねぇってわけじゃねぇが」 「じゃあ、いいじゃないですか。楽しくいきましょうよ」 「ま、お前がそういうならそれでいいけどよ」 「いい加減、先の見えない旅だからな。こらえ性のないお前にはしんどいのだろう?」 意外なところから矛先が向く。 「オレさまは結構我慢強いほうヨ?」 少し腰を突き出しているように見えるのは気のせいだろうか。 違う意味を重ねているのだろう。 「じゃあ、まだまだのんびりと旅を続けられますね」 八戒が目を細めて言う。 「お前、結構楽しそうだな」 悟浄が苦笑する。 「楽しいじゃないですか。仲間と一緒に旅を続けられる。そんな日が続くと考えるだけで」 「そーだな。いつまで続くかわかんねーけど、俺も結構楽しいと思う」 悟空が八戒に同意する。 「あまり気軽に考えられると困るが、かといって深刻になったところで事態は進展しない。全力でぶつかりつつ状況を楽しめればそれが一番だ」 「ぉお?!坊さんがめずらしくまともなことをいっているぜ!」 三蔵の珍しく長いせりふに悟浄が反応する。 「一応坊主だからな」 と、その冷やかしにも三蔵は珍しく取り合わない。 「今年は穏やかな一年を目指すのですか?」 「そういうわけではないがな。打開できない状況を騒いでも仕方あるまい?有効な対応を考えた結果だ」 「それはそうですけど・・・」 そんな三蔵に八戒は苦笑した。 毒気を抜かれたかのように悟浄と悟空は静かだった。 もっとも、悟空は食べるほうに集中していたという意味もあるが。 「さて、そろそろねますか」 「そうだな」 八戒と三蔵が立ち上がる。 「俺は少し外を散歩してくるわ」 「悟空はどうします?」 「んー」 少し首を傾げてから、悟空はこういった。 「全部食べ終わってから考える」 「わかりました」 八戒は素直な反応に微笑みながら部屋を後にした。 「片付けは明日の朝おきたらやっておきますから、食べ終わったらそのままにしておいてくださいね」 「ふぁい」 口の中にモノが入ったまま返事が返ってくる。 十分元気のようだ。 「ということで、今年もよろしくです」 「あぁ」 「おやすみなさい」 「ん」 それぞれはそれぞれの夜についた。 今年も4人一緒ならよい年になるだろう。 いつまでもそんな日が続けばいいと思いながら、八戒は眠りについた。 「おやすみなさい」 誰に言うともないその言葉は闇に消えた。 FIN 2003 01/01 written by ZIN 1994-2003 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved