<宿>
「ひやぁ〜。参ったなぁ〜。ずぶ濡れだぜ、ったく・・・。」
「オレ、やだなぁー。あーゆー戦い。」
「まったくだ。」
「同感です。」
古ぼけた宿に到着した4人は、持っていたタオルで体を拭いた。
「夜分遅くに、すいませーん。今日、ここに泊めていただけませんかぁ〜?」
宿を押さえるのは、八戒の役目。
この笑顔で頼まれたら・・・
きっと、例え、どんなに満室であっても、泊めさせてもらえるだろう・・・。
他の3人には、変な確信があった。
「いらっしゃいませ。4名様ですね?
あらあら、みなさん、ずいぶん、濡れておいでですね・・・。大丈夫ですか?
ただ今、満室なんですけど・・・あっ、でも、お客さん達の為に、
特別に、部屋を用意させて頂きますね!」
ここの若女将であろうか、ほんのり頬を赤くして、愛想よく出迎えてくれる。
「うちの宿には、露天風呂もあるので、よろしかったら後でゆっくり、
温まっていって下さいね。」
部屋に案内し、そう言い残すと、若女将は持ち場へ帰って行った。
案内された部屋は、2部屋。
とりあえず、4人は1つの部屋に入る-----。
やれやれ・・・。
やっと落ち着くことが出来た-----。
八戒は、三蔵の横に腰掛けて、にっこり微笑む。
「はい、三蔵。腕、出してください。」
「いいって。大丈夫だ、このくらい。」
困った人ですね・・・といった顔で笑い、そっと彼の右腕に、気孔を当てる。
「いーなぁー。三蔵・・・。 八戒、俺にもぉ〜!」
悟空が楽しそうに、八戒の背中に抱き付いく。
「おめーは、どこも怪我なんてしてねぇーだろ!」
悟浄は、悟空の耳をひっぱりながら、側のイスに座らせた。
「・・・はい。終わりましたよ。」
「ふん。」
すっかり傷もふさがり、煙草に火を付ける。
三蔵は何も言わないが、その雰囲気で感謝してくれている事が分かる。
「あのぉ・・・。僕、疲れちゃったんで、先に寝ますね。
部屋割りは、皆さんにお任せしますから。」
八戒は、いつもの笑顔を残し、一足先に、もう1つの部屋へと姿を消した。
普段なら、いくら疲れていても・・・、
たわいも無い、これから寝るまでのひと時を、楽しく共に過ごすはず。
しかし、それを敢えてしない理由・・・・・・。
三蔵と悟浄には、大体、見当が付いていた。
だが、その事よりも、まずは部屋割り。大いなる頭痛の種である。
「さぁ〜て・・・・。
今日は、誰が八戒と同じ部屋になるのかなぁ〜?」
悟浄は、煙草を咥えたまま、不敵な笑みでジャンケンの体制。
「ふっ、負けんぞ。俺様は強い。」 素直にジャンケン勝負を受けて立つ三蔵。
「え?ジャンケンすんの?オレもぉ〜!」
実際、悟空にとっては、誰と一緒になっても良かった。悟浄以外となら・・・。
「ジャン、ケン、ポイ!!」
「あいこで、ショ!」
「あいこで・・・ショ!」
「ショ!」
「ショ!」
「ショ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
数分後・・・。
「あああ〜〜〜!腹減ったぁ〜!何食おう? なっ?三蔵ー!」
「うるせーんだよ!」
三蔵は、額に手を当てている。
悟空と、ずっと一晩、一緒なのかと思うと、かなり頭痛がするのだろう・・・。
「っつーことで、俺も寝るわ。じゃーな。」
気持ち良さそうに背伸びをし、三蔵たちの部屋を出て行く悟浄。
彼は、ご機嫌だった。
三蔵と同室だと、いつ銃で殺されるか分かったもんじゃねーし、
悟空とだと、やかましくて、寝られやしねぇー。
八戒とが一番、落ち着くんだよな・・・・。
三蔵も、ぜってーそーなんだろうな。
八戒は、おとなしくっていい。
もう1つの部屋で、先に寝ている八戒を気遣い、そーっと扉を開ける・・・・・・。
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<光>
ちょっとくすぐったい感覚------。
極力、音を立てない様にして、隣のベッドで仰向けになる。
きしっ、みしっ!
あ、起こしちまったかな?
薄明かりの中、悟浄は、八戒の様子うかがう。
反応は無い。・・・・しかし・・・・・。
「眠れねーんだろ?」
「・・・あははっ、バレてましたー?」
寝ているフリをしていたのだが、見破られてしまった。
仕方ないので起き上がり、自分のベッドに座り直す。
悟浄は、窓を見つめた。外は夜。しかも雨が、しとしと降っている。
八戒が、雨の夜が苦手なのは、痛いほどよく分かっていた。
このままだと、暗い話になりそうなので、
何か他に話題は無いかと、考える。
「今日の戦い、大変だったなぁ〜。」
「ええ。夜に襲ってくるなんて、卑怯ですねぇー。まったく。
しかも、あの数・・・。暇な方が多いんですね。」
手を口元に持っていき、くすくすっと、笑う。
「悟浄・・・さっきは,かばってくれてありがとう・・・。」
「ああー。いいってことよ。」
悟浄はひじを立て、横に転がった。
「実際、見えにくいんですよ・・・。
視界が、悪いんです・・・・・・・。
雨の夜なんかは特に・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「最近、ふと・・・、思うことがあるんです。」
「何?」
「もし、この1つしか無い目が、光を失ったら・・・、って。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。大変だろうな・・・・・・・・・・・・・。
でも、手話覚えたり、ジェスチャーや、筆談したらいいじゃん。」
「あははっ。それは、耳が聞こえない場合でしょ?」
「あ、そっか。」
八戒と悟浄は、2人して苦笑していた。
「点字・・・、マスターしておくのが、得策でしょうか・・・?」
・・・なんて、言ってはみたものの・・・
本当に自分が言いたい事とは、ズレている・・・・・・。
この気持ちは何だろう?
焦燥感・・・? 不安感・・・?
「もし、そうなったら、俺が、お前の目になってやる。まかせときな!」
頼もしい言葉・・・。
目の前の彼は、何のためらいも無く、こんな僕の目になってくれると言う。
胸が熱い・・・・・・
「-------ありがとうございます-------。」
嬉しさで、涙が込み上げてくるのを、ぐっと堪える・・・。
そして・・・
美しい輝きを放つ緑の瞳は、そっと真紅の瞳を映しだす・・・。
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<鏡>
本当は・・・・・・・・・
本当は、いとしい貴方の姿が、見えなくなってしまうのが、怖いんです。
こんなに、やさしくて、僕の過去を知ってもなお、受けとめてくれる、悟浄。
悟浄だけではない。僕は、三蔵も悟空も、見えなくなってしまうのかと思うと、
どうしようも無く、不安になってしまう。
一人、取り残される様な気がして・・・・・・・・・・。
「どうした?八戒。」
ポーカーフェイスを続けていたつもりだったが、
そんな僕の心を、読まれてしまったのだろうか?
「いえ、何でもありません。」
「も一度だけ言うぞ。
大丈夫だって。心配すんな!
例え、一人になったって、俺はずっと側に居る。」
・・・ああ・・・もし、永遠に光りを失うことになっても・・・
僕の心の瞳は、ずっと貴方を追いかけていてもいいですか・・・?悟浄・・・・・・。
そっと心の中で、呟いた。
「・・・・・・くすくすっ、お願いしますね。」
安心した無邪気な笑顔で、八戒は、悟浄を見つめる。
その笑顔は・・・
自分にしか見せない、特別な笑顔であることに、悟浄は気付いていた。
「そろそろ、寝ようぜ。雨も上がったみてーだしよ!」
悟浄は、窓の外を見ながらそう言った。
八戒も、同じ窓を見つめて、穏やかに呟く。
「その様ですね・・・
ありがとう・・・・・・
おやすみなさい-----。」
このまま、時が止まってしまってもいいのに・・・・・・
どこか懐かしい・・・それでいて、とても暖かい・・・・
八戒は、そんな感覚に包まれながら、深い眠りに落ちていった-----。
<完>
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リリーさんからいただいたお話です。
4人がそれぞれ素直に動いていて、自然に読めますね。
それでいて八戒に対する思いが感じられてしあわせです。
ありがとうございましたv。
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