雨 (悟浄&八戒)






外は雨音がする日曜日の午後、私はいつものように自分の昼御飯の片づけと彼の片づけをのん
びりと薦めていた。
「なぁ?」
彼がリビングからだるそうな声をかけてくる。
「なんでしょうか?」
私は後3つになったお茶碗を洗いながら生返事をした。
しばらく返事が返ってこない。
少し雨音が強くなったようだ。
このままだと、近くの川はまた大変だろうな。と思いながら、水道の水音と雨の音が重なる瞬
間に楽しみを感じつつ洗い物を済ませた。
軽く手の水を切り、タオルで拭うと、エプロンをはずしながらリビングに戻る。
彼はソファーに座りながら寝ているようだ。
相変わらずTVはつけっぱなし。
これもいつものことだ。私は起こさないように注意をしながら、寝室に毛布を取りに行く。
戻ってきて、彼に毛布を掛けようとしたところで、彼が起きていることに気がついた。
「おきていたんですか?またてっきり寝てしまったのかと」
彼はちょっとだけ私の方を見て、ぼそぼそとつぶやいた。
「せっかくの日曜の午後に二人きりになれたんだ。寝るわけ無いだろ」
”いつもねているくせに”とはいえなかったけれど、その言葉はすごく嬉しかった。
「そうですね。でも今日はあいにくの雨ですよ。どうしますか?」
私は窓辺により、少しだけ窓を開けた。
雨足は先ほどよりも弱くなったものの、雨はまだ降っている。
やはり、雨の中を歩くよりはいつも通り、寝室でのはこびになるのかな?
と思っていたところへ意外な提案が彼から発せられた。
「買い物にでも行くか」
「え?」
思わず間抜けな返事をしてしまう。
いつもどおりなら、”隣の部屋が俺たちを呼んでるぜ”とかいって、結局幸せな時間を過ごす
のだが、今日の彼の提案はそれ以上に新鮮なものであった。
「なに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているんだ。まぁ、その反応はそれはそれでおもし
ろいけどな」
彼は私の反応が思ったよりもおもしろかったようで、苦笑している。
少しの間TVに視線を戻し、再びこう提案した。
「確かあさってはおまえの誕生日だったよな。休みは今日を逃すと誕生日の後になっちまうか
ら、今日動かないとプレゼントを買いに行けないだろ?」
思わずはっとなる。
そうだ、先週末に自分で”来週は私の誕生日ですよ。忘れないでくださいね。”と言っておき
ながら、すっかり忘れてしまっていた。
あまりにも単純な幸せな日常に自分の誕生日さえも忘れてしまう。
幸せなことも考え物だな、と少しだけ思ったけど、私はこの小さなハプニングに素直に従うこ
とにした。
「そうでしたね、すっかり忘れていました。で、どこに行きましょうか?」
私は彼のソファーの隣に座り、くだらないことをやっている番組を少しのぞき込む。
「とりあえず出かけないか?行き先はそれから考えてもいいだろう?まだ午後に入ったばかり
だし、天気予報じゃあ、夕方には晴れるそうだ。帰りは夕日をバックにとしゃれ込もうじゃね
ぇか」
「いいですね。じゃあ、すぐに出ますか・・・」
上着だけ着替えて、準備をする。
彼はスウェットから、いつものズボンに履き替えると、少し大きめのジャケットを羽織った。
「いつものベストじゃないんですか?」
「ん?冷えるとまずいからな」
何でもないように言う。私のことを思ってくれているようである。ここまで気が回るのに、な
ぜゴミの日を覚えていないのだろう。
自分の事には無頓着な人だとはいえ、少しは・・・
玄関で雨に濡れてもいい靴を選び、彼が出てくるのを待つ。
彼はいつものブーツを履き、大きめの傘を持つ。
「おまえは持たなくてもいいぞ」
「ん?」
「二人で一つの傘で十分だよな?」
これも誕生日プレゼントなのだろうか?
私は素直にその申し出を受けることにした。
「そうですね。では行きましょうか?悟浄」
「鍵ちゃんと締めとけよ、八戒」
雨も大分小雨になり、歩いて行くにはちょうどいい雨足になってきた。
帰りには本当にきれいな夕焼けが見られるかもしれない。
玄関の鍵を閉め、先に出ていった彼の元へ、小走りに駆け寄っていく。
彼の腕に自分の腕を絡め傘の中に入る。
「行きましょうか?」
「ああ」

今日は日曜の雨の午後。
幸せは雨が運んできてくれたのかもしれない。

FIN







1999 07/05 wrihted by ZIN
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