いない朝=後編(八戒&悟浄)


一人でいることがつらい。
花喃を無くしたときにそう思い、一人で生きることを考えた。
自暴自棄に百眼魔王の城を叩きつぶし、千人の妖怪を殺した。
手の中には数え切れない死体の感触と、血の暖かさをいまでも思い出すことがある。
地面にはいつくばって、どうしようもないときに彼は自分を見つけてくれた。
死ぬことも特に恐くなくなっていたのに、その赤い髪の毛はとても自分に似合っている
ように感じた。
のぞき込んだ目の色も真っ赤で、自分の体から流れ落ちている血が映り込んだのかと思
ったほどだった。
それでも直感的に『この人と自分はずっと一緒にいるべきだ』と感じたのだから、本物
なのだろう。
「ぼんやりと物事を考えていても、なかなか時間は進まないものですね・・・」
そういって、今日何度目かのぬるくなってしまったお茶を入れ直しに台所へ向かった。
「・・・おや?」
何の気無しに、茶菓子でもと冷蔵庫を開けた八戒は、悟浄のストックしてある缶ビール
へと視線を向けた。
「こんなにため込んで・・・外でも十分に飲んでくるでしょうに・・・」
思わず苦笑しながら、悟浄が帰ってきたときのおきまりのパターンを思い出してしまう。
『悟浄、もう、充分飲んできたのではないですか?』
『いや、外と帰ってきてからの飲みは違うんだよ』
『ご飯とデザートの入る胃袋は違うというのと同じ様なものですか?』
『う〜ん、ちょっと違うが、それに近いものがあるな。気を張って飲むのと、ゆっくり
気を許して飲むのは味もまた違うのさ』
そう言っていつも一気に一缶開けてしまう悟浄の顔が浮かんだ。
「だいぶ依存しちゃってますね、僕」
情景を思い浮かべながら、缶を一つ手に取ってみる。
冷蔵庫で冷やされているので、手のひらに冷たさがすぐに伝わる。
あついお茶で暖められた八戒の手のひらであったが、すぐに冷蔵庫と同じ温度へと誘わ
れる。
「・・・冷えたビールがおいしいと思うのは、精神が熱くなっているからなんでしょう
ね。いつも冷えている僕は、ビールをおいしいと思ったことはありませんよ。悟浄・・
・」
そう言いつつも、手に取った缶ビールを持ち、自分の部屋へと向かう。
ガスを落とし、台所の電気を消した。
冷蔵庫の上に同じようにストックしてあるつまみを一つ失敬し、小脇に抱える。
本は・・・いらないだろう。
自分は酔わないが、アルコールの入ったときはよく眠れる。

ベッドに座り、缶を開ける。
プシッと音が鳴り、炭酸の抜ける音が懐かしさを感じる。
「一日しかいない日がないのに、こんな事では、いなくなったときは大変ですねぇ」
ごくごくと半分ほど缶を開け、外を見る。
晴れてはいるが、非常に寒いことだろう。
寝相の悪い悟浄のことだ。
帰ってきたときには風邪を引きかけているかもしれない。
窓に吹きかける息が白い。
つまみを開けたものの、少しだけかじって、特に手を着けない。
手に持ったままのビールはさすがに温くなってしまった。
ぼぉっとしていても時間は過ぎてしまう。
意識しすぎると時間は長く感じる。
時間を計るのは目でもなく、時計でもなく、心だと言ったのは誰だったろうか・・・
今はその言葉の意味が分かるような気がする。
楽しいときはものすごく速く進み、時間が早く経って欲しいときほど遅く感じる。
1分1秒でも早く悟浄に会いたい。
どこにいるか、何をやっているのかは想像着くが、それでも早く会いたいと思ってしま
うのはわがままだろうか。
「ま、しかたないんですけどね」
一人独白してみる。
窓を勢いよく開ける。
バタン。と言う音と供に肌を凍てつかせるに値する空気が部屋に流れ込む。
あまりの冷たさにうじうじと考え込んでいた気持ちさえ吹き飛ばしてくれるようだ。
「なぁに、たった一日ですものね。早く帰ってきて下さいね。悟浄!」
窓の桟にもたれかかり、八戒は残りのビールを一気に空けた。

FIN

2001 01/21 written by ZIN
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