そのあと・・・(悟浄&八戒)




「しかし、おまえ本当に人間だったんだな・・・」
清一色との戦いの後、宿場に戻った三蔵たちは一日ゆっくりと休み、翌日に出発することになっていたのだ。
しかしながら、例のごとく八戒以外のメンツは午後になっても起きてこない始末。
前日の夜から出かけていた悟浄が昼の用意をしている八戒の元にきて、コーヒーを飲み、一服し始めたところでかけた言葉がコレであった。
「ええ、別に隠すつもりはなかったんですが・・・」
八戒は少しスマなそうに頭をかきながら、悟浄に答えた。
「いや、あやまられてもな・・・オレがおまえを拾ったときは、あんまりつらそうな顔をしていたから、とりあえず助けたんだが、まさか
、100人切りで本当に妖怪になれる人間がいたとは正直驚いただけだ」
「本当のところはちょっと違うんですけどね」
「そうなのか?」
悟浄が不思議そうな顔をして八戒の方に注意を向ける。
「さぁ、お昼ができましたよ。どうせ朝もなにも食べていないんでしょう?あまり外泊すると、またそのうち三蔵が文句を言い始めますよ
。女の子もいいですが、多少は考えてもらわないと・・・」
「ちっ、ばれていたか・・・やっぱりおまえにはなにもかもおみとおされっぱなしだな」
「きょうは、煮物です。午前中ゆっくりできたので、じっくり煮込んでみました。悟空の分を残しておいてくれればいいので、どうぞ食べ
てくださいね」
「三蔵は?」
「悟空の分を少しまわせば十分でしょう、あの人は。元々あまり食べない人ですしね」
「じゃあ、食べるとするか」
「いただきます」
しばらく二人は黙々とご飯を食べる。
「ところで・・・」
「そうですね話の続きをしましょうか・・・」
八戒は、少しまじめな顔になり、話の続きを話し始めた。
「そうですね、どこからはなしましょうか・・私を含め、私たちの一行は、誰しもが、前世の記憶を残したままの生まれ変わりのように思
われがちですが、実際には、悟空はほとんど覚えていませんし、私も最近まですっかり記憶の彼方に置き忘れていました」
八戒は照れ笑いをした。
「そこまではいいですよね?」
「ああ」
黙々とご飯を食べながら、悟浄は八戒の話に聞き入っていた。
「特に三蔵が一番よく覚えていて、次に悟浄、不安定ながらも悟空も少しは覚えているようでしたが、僕はほとんど覚えていませんでした
。実際には封印されていたんですよ、僕の前世の記憶は」
「何でまた、おまえの記憶だけが封印という形で表にでてこなかったんだ?」
「それはおそらく・・・」
言いかけて八戒は一度口をつぐんだ。
「どうした?どうしてもいえないようなら、オレは別にかまわないぜ。人には誰しも言いたくないことがあるのは百も承知だからな。オレ
は、オレで言いたくないこともあるし・・・まぁ、なるべくおまえには隠し事をしたくないから俺はおまえには話せることは話しておこう
と思っているが、おまえがそこで、話せないと判断するなら、それは話せるときになったら、ゆっくりと話してくれればいい。俺はそれく
らいは待てるつもりだぜ」
悟浄は自分の皿をたいらげると、一気に言葉をはいた。
それは口は乱暴だが、悟浄の八戒に対する優しさが大いに現れていた。
「そうですね、話しても問題ないでしょう・・・」
八戒は少し深呼吸すると、再び話を始めた。
「僕の前世は、はっきり言えば狂っていたんです。おおよそ世間には出せないような実験を繰り返す研究者だったんです。それも天上のね
。それが花楠がさらわれたときに暴走したんです人間の状態のまま・・・ね。そう、最愛の人をさらった妖怪がにくかった。憎くて憎くて
しょうがなかったんです。自分が妖怪の生まれ変わりとも知らずにね。そして、僕は清一色のところへ乗り込んだ。当然人間風情が妖怪の
すみかに乗り込んで無事にすむわけがない。ぼろぼろになり、殺されそうになった瞬間、体が自然に動いていたんです。そう、僕は覚えて
いたんですよ。気功術を・・・・・。今までなにも習ったことのない気功術を僕は易々と使っていた。それも、なにも考えなければ考えな
いほど、体がスムーズに動いたんです。後は簡単でした。一色のところに行くまではね。その後はこないだの時に一色が言ったとおりです
。そこで僕は感じていたんです。自分の中に人間ならざる何かがいることをね。妖怪どもの返り血を浴びながら、自分の中でわき上がる気
持ちを押さえつけられなかった。自分の中にあるもう一つの感情を押さえ込めなかった。それは一色の血で解放され、そして僕を崩壊へと
導いたのです」
そこまで一気にしゃべると、八戒は一息つき、お茶を入れ直した。
「オレのも頼む」
「ええ・・・」
八戒はにこやかにほほえむと、水場へと湯を取り替えに行った。
「はい、どうぞ・・・」
「おう、さんきゅ。それであのとき殺してくれって言う目をしていたのか・・・自分が一番にくんでいたはずの妖怪が実は自分だったんだ
からな」
「ええ、でも、花楠は知っていたんでしょうね。僕が妖怪の生まれ変わりであることを・・・」
「そうなのか?」
「たぶんそうだと思います。まぁ、今となってはわかりませんけどね。あ、そろそろ彼らも起きたようです。また楽しい日々の始まりです
ね」
「やかましい日々の始まりじゃないか?」
遠くの方から、ぎゃいぎゃいと三蔵と悟空のやり合うにぎやかな声が聞こえてくる。
「でも、二人で過ごしてきた日々もよかったですが、彼らと出会ってからの方が僕はお互いに充実していると思うんですよ。そう思いませ
んか?」
「確かにそれはいえるな。まぁ、おまえはおまえ、オレはオレ。それはいつまでたっても変わらないことだ。それを忘れずにいればいつか
は答えが見えてくるんじゃねぇか?」
「僕もそう思います。じゃあ、そろそろあの二人のご飯の用意でもしますか」

そういった瞬間、勢いよく台所のドアが開かれ、悟空が入ってきた。
その後に三蔵の姿も続く。
「あーーはらへった。昨日はよく動いたからなぁ。早くこの足を治すためにも、いっぱい食べなきゃ。八戒、ご飯まだぁ?」
「はいはい、今できますからね。三蔵はお茶でいいですか?」
「ああ、飯は少な目でいい」
「わかりました。悟浄?少し手伝っていただけますか?」
「おう、わーーーったよ」
そして、悟浄は八戒を手伝い始めた。
またいつもと変わらない一日が始まる・・・
そう、西を目指して・・・・

FIN






1998 12/7 wrihted by ZIN
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