「俺が最後まで生き残るとはネェ・・・」
妖怪が年を取らないと決めたのは誰だったのだろうか・・・
「ちゃんと年を取るじゃネェか」
自分のしわが刻まれた手を見つめて悟浄はつぶやく。
それでも自分の指には煙草が挟まっている。
年を取っても、自分は自分であることに悟浄は誇りを持てるようになっていた。
それでもたまに後悔してしまう。
「僕の分まで生きてください」
その言葉に、
「まかしとけ」
結局最後まであいつの前ではカッコつけるしかなくて。
本当はすぐにでも追いかけて死にたかったのに。
生臭坊主も結局人間としての寿命を全うした。
馬鹿猿は何のためらいもなく坊主の後を追った。
ほっておけば、一番長生きしたはずなのに。
「一番健康に疎いやつが結局一番長く生きちまうワケだ」
立ち上がって、灰皿を取りにゆく。
すでに数百年が経過しているにもかかわらず、外見と違い悟浄の足並みはしっかりしている。
燃えるような赤い髪はすでに白くなり、薄く桃色を残すのみ。
「それでもこの色が綺麗だといったやつがいたな」
ふと近所のご老人が噂していた言葉を思い出す。
すでに悟浄も十分に老体であったが。
それでも長いままの髪の毛。
あいつが血の色に見えると言ったそれでいて好きだと言った髪の毛。
それでも瞳の輝きを失ってはいない。
俺はここにいる。
あいつとの約束のために。
あの世とかを信じるワケじゃないけど。
後を追ったらあいつにしかられる気がして。
それでもあまりに長い間一人は寂しくて。
そろそろいいよね?
もう十分生きたよね?
ソファーに戻り、深く腰を沈め、灰皿をテーブルの上に置き、煙草に火を付ける。
深く息を吸い込み、そいつを吐き出したら、悟浄はその煙草を灰皿においた。
ゆっくりと目を閉じる。
そして悟浄は眠りについた。
そう、永遠の眠りに。
目が覚めた。
いつもと変わらない風景。
昨日泊まった宿屋。
放り投げた時計がいつも通り盛大に遅刻した事を無言で告げている。
「老後ネェ・・・」
あまりに具体的すぎる内容に一抹の不安を覚える。
「ま、あんまし先のことを考えてもしゃあないわな」
悟浄はめんどくさいことを考える事をやめ、体を起こす。
上着を着て、自室のドアを開ける。
時間的に考えて、おそらくは昼食を食べようとしている八戒に会わせて朝食を取ろう。
そして今日も楽しくすごそう。
扉は軽く開いた。
髪を軽く掻き上げ、悟浄は部屋をでる。
「おーーっす」
食堂で声が響く。
主のいなくなった個室で隙間から吹き込んだ風がベッドをなでる。
薄桃色の長い長い髪の毛が軽く舞う。
未来は近いのか。
それとも遠いのか。
薄桃色の髪の毛は主のいない部屋でそのときを待つ。
確実にやってくるであろう未来を・・・
FIN
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