Happy Birth Day!




「ふぅ・・・」
その日も八戒は起きた瞬間に自分が生きていることを確認し、今日も自分は生きていいのだと
実感していた。
寝間着から普段着ている洋服に着替え、めがねを手に持ったまま、自分の部屋のドアを開ける。
「おや?」
あまりにも静かな宿の気配に八戒はいぶかしげな表情をした。
そして、手に持ったままのめがねを少しうつむいてカチリと、つける。
確かに八戒たちが泊まった宿屋は彼ら以外は宿泊していなかったのであるが、この静けさは異
常であると、八戒は本能的に感じていた。
敵の侵入があれば、三蔵や、悟浄が気がつかないはずはない。
ましてや、宿の従業員の姿さえ見えないのだ。
出ていったにしては物音がしなかったし、悟浄は必ず自分の部屋を覗いて行くはずだ。
「まさか、敵が?」
一瞬不吉な考えがよぎったが、その考えを八戒はすぐにうち消した。
あの紅該児が、いきなり不意打ちをかけるとは思えない。
悟空ほどではないが、八戒も少なからず敵の大将である紅該児に好感を抱いていた。
「さて、そうすると、この静けさは何なんでしょうね」
廊下で壁により掛かり、少しの間考えていた八戒であったが、この寝室がある2階に誰もいな
い以上、考えていても、仕方がないと判断し、とりあえずいないかもしれないが、1階におり
、宿の女将さんにでも状況を聞こうと、階段を下りていった。

大衆食堂をかねている1階に降りると話し声が聞こえたので、八戒は一瞬ほっとしたが、その
直後に結局自分はこの建物に一人だったことを知った。
テレビがつけっぱなしになっていたのである。
いつものように三蔵が、食堂のテレビを独占していたのであろう。
三蔵がここ数日いつも使用しているテーブルには、きちんと折り畳まれた今朝の新聞が丁寧に
置かれていた。
三蔵は確かにここにいた。
いつものようにここにいたのだ。
ただし、今はここにいない。
水場の方にも物音がしないことから、宿の人間も一人もいないことが聞いてとれる。
「これはいよいよ困りましたね」
しかし、その三蔵が読んでいたであろう新聞に、何かが挟まっているのを見つけ、八戒はテー
ブルに近づいた。
テーブルの上に置かれたきれいに畳まれた新聞には何かの紙切れが挟まっているようだ。
「ん?これは?」
新聞を手に取り、しおりか何かだろうかとひっくり返してみる。
軽く挟まっていただけの紙切れは八戒が新聞を手に持ち、くるっと返したときにひらひらと落
ちてしまった。
「おっとっと」
その紙切れを拾い上げた八戒は、中身を見て、苦笑した。
その紙切れにはこう書いてあったのだ。
「Happy Birth Day HAKKAI! 北の宿屋で待つ BY三蔵、悟浄、悟空&従業員一同」
苦笑しながら八戒はひとしきり頭を抱えた後、一人ごちた。
「こんな手の込んだことをしてくれるとは・・・嬉しいじゃないですか。本人も忘れていた誕
生日をお祝いしてくれるなんて」
誰もいない食堂で、八戒は苦笑から、少し声を出して笑った。
こんなに気持ちのいいことをしてくれるなんて。
一人では感じることのできなかった感覚。
心地よい仲間。
今は彼らがいる。
八戒は綺麗に晴れた外に向かって、宿屋のドアを開けた。

FIN







1999 09/26 wrihted by ZIN
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