それぞれのクリスマス(4人)後編




にっこりとほほえむ八戒の顔には先ほどの恐ろしさは消えていた。
たまに見せる八戒のその表情に恐ろしさを感じつつも、三蔵は本当にこの男が自分の味方でよ
かったと思うことが多くなっていた。
それは、悟空の面倒をみてくれるからとか、悟浄のうっとおしい相手をしてくれるからだとい
うだけではなく、自分たちの心の支えになりつつあったからである。
「そういえば、三蔵はクリスマスというのは経験があるのですか?」
少し思いに耽っていた三蔵は部屋にふたりっきりとなった相手に話を振られて、多少驚いた。
「?」
「あ、すみません、三蔵って仏門の方ですから、こういうイベントものは好きではないのかな
ぁって」
三蔵は二人になったのを確かめると、ようやく新聞を自分の一番近い机の上に置き、八戒に向
き直った。
「別に嫌いというわけではない。ただ、騒がしいことに興味がないだけだ」
相変わらずつまらなそうにだが、それでも、きちんと八戒にだけは思ったことを口にする。
それは三蔵なりの礼儀のつもりなのだろう。
八戒が三蔵にものを尋ねるときはそれがたとえくだらないことでも、八戒はきちんと順序立て
て訪ねる。
三蔵はそれが後の二人のようになにも考えないよりはありがたくもあり、そして、寂しくもあ
った。
「そうですか、じゃあ、それなりに楽しんでいただけるんですね」
「くだらんがな」
返事は素っ気ないが、それなりに楽しむということには納得したようだ。
「あの馬鹿どもはどうするつもりだ?」
外をふとのぞきながら、先ほどでていった二人のことをいっているのだろう。
なんだかんだいっても、結局は二人のことを心配しているのだ。
「ふふふ。そうですね、悟浄はさっきでていくときに時間を僕に確認していきましたから、た
ぶん適当な頃に帰ってくると思いますよ。意外に彼は時間には正確ですから。悟空もたぶん大
丈夫でしょう。だって、あんなにごちそうを楽しみにしていましたし。」
「そうだな、あの猿は飯の時間には恐ろしいほど正確だからな」
そういう三蔵の表情が一瞬だけほころんだ気がしたのは八戒のひいき目であろうか。
しばらく八戒と三蔵の沈黙が続いた。
「そろそろ時間ではないのか?」
その沈黙を破ったのは三蔵であった。
「はい?」
「夕飯を手伝うといって、宿の女将に時間まで指定したのはおまえだろう。それがそろそろで
ないかといっているんだ」
手のひらをぽんっとたたいて、八戒は自分がいったことを思い出す。
「ああ、そうでしたね、すっかり人の心配をしていたので忘れていました」
「おいおい・・・」
さすがの三蔵も久しぶりの八戒のぼけぶりに思わずつっこみを入れてしまう。
くすりと笑う八戒の笑いの対象が自分であることを感じ取った三蔵は一瞬だけ照れた顔をした
が、すぐに元の表情に戻ると、八戒に告げた。
「飯の時間になったら、呼べ」
いつものように颯爽と立ち上がると、袈裟をなびかせて三蔵は部屋を出ていった。
「相変わらず食えない人ですねぇ」
誰もいなくなった部屋で三蔵がでていったドアを眺めながら、八戒は部屋の中を見回した。
「まさか、クリスマスを悟浄以外の人と迎えることができるとは思いませんでしたね」
一人になった八戒は冷たくなり、霜の降り始めた窓の外を眺めながら、花楠との日々、悟浄と
の日々を思い出していた。
「まぁ、毎日顔を合わせていてもこういうイベントはいいものですね。次は年越しですね。や
おねさん達も今度はお呼びしてお祝いでもしたいですね。さてと・・・」
座っていたいすから立ち上がり、指定の時間に間に合うように時計をみる。
「ちょうどいい頃ですね。悟空のためにもおいしいものをたくさん用意しておかないと」
そういいつつ、ドアに手をかけ、部屋をでる。
「あ・・・」
自分の部屋を通り過ぎる前に八戒は何かを思いだしたように部屋の中に入る。
「これを忘れるとあの人はすねますからねぇ」
八戒は小さな包みをポケットに入れると、再び食堂へと向かった。

外は寒さを増し、雪もちらつき始めた町の中をイルミネーションが照らし始める。
今年のクリスマスイブは暖かく過ごせそうだ。
そう思う4人であった。

FIN






1999 12/31 wrihted by ZIN
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