ハッピーバレンタイン(八戒&悟浄)後編



「まったく・・・激烈なまでに真っ正直ですねぇ。彼は。あんなにストレートに顔に気持ちを
出したら、わからないのは悟空ぐらいのものでしょうに」
そう思いながら、八戒は皆のためにお茶をテーブルに置くと、自分も座り、「ほぅ・」とため
息をついた。
「ため息をつくぐらいなら、なんとかしろ。うっとおしくてかなわん」
三蔵も悟浄の気持ちを知っていて、最初の言葉を投げかけていたようだ。
やはりこの男はよく見ている。
そう思いながら、八戒は「そうですね」とだけ相づちを打った。
「さぁて、俺らはちょっと外に出かけるぞ」
三蔵は悟空の方をみて、八戒に声をかけた。
「え?どこかに出かけるんですか?それじゃあ、僕も・・・」
言いかけたところで、三蔵と視線が合い、「くるな」という意識を感じたので、八戒は席に戻
った。
彼らにとっても、今日は「バレンタイン」なのだ。
三蔵がそんなイベントにこだわるとも思えないが、買い物にでも出かけるのだろう。
自分は素直に悟浄の帰りを待つとするか・・・
そう思って、三蔵と悟空をいつもの通り、笑顔で送り出した八戒は台所を片づけ始めた。
「いよぉ・・・」
照れくさそうな言葉とともに、悟浄は八戒の後ろから声をかける。
「お待ちしていましたよ。」
振り向きもせずに八戒は答える。
「ナァ、今朝の言葉は本気にしていいわけ?」
とりあえず聞きたいことをストレートに聞いて、あとは野となれ山となれという感じであった。
入り口のところで反応が無かったので、悟浄は洗い物を続ける八戒の後ろから、しなだれかか
り、抱きしめるようにして、もう一度聞いた。
「まじ?」
そこで、ようやく八戒は悟浄の方を振り向き、頬に軽いキスをした。
「当然です。そんなに信じられませんか?」
「いや、信じられないと言うよりも、うれすぎちゃってさ」
寄りかかりながら、頭を掻いて、ぽつりぽつりと話す。
「そんなに不安な顔をしないでください。三蔵も悟空も心配していましたよ。お互いに夜を楽
しみに、いつも通りに過ごしましょうよ」
「ああ、そうだな。んじゃ、俺はちょっくら外に出てくるわ」
台所を出ていく悟浄の背中に八戒が声をかける。
「あ・・・」
「わ〜ってるって。よけいなことはしませんよ」
たばこに火を付けながら、八戒の言いたかったことを先に制した。
「それならイイです」
八戒もその一言で、悟浄が自分の言いたかったことを理解してくれたので、それ以上は何も言
わなかった。
ばたん。
悟浄の出ていった扉が閉まり、また、ひとしきりの静寂が訪れた。
「さて、かれらの帰りをゆっくりと待ちますか・・・」
誰のためでもなく、自分のために入れたお茶を軽く飲み、ゆっくりと流れる時間を八戒は感じ
ていた。

FIN

2000 02/19 written by ZIN
1994-2000 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved