Eternal for with you(独角&紅該児)



「全く、李厘にも困ったものだ・・・」
おもむろに居間の扉をがちゃりと開け、入ってきた誰に言うわけでもなく独り言を言いながら、
ソファーに腰を深く下ろした。
「お?また、愛しの姫君のお相手かい。やんちゃな妹をもつと、気苦労がたえねぇなぁ」
珍しく玉面からの指示もなく、一日暇になっていた独角は居間で、トレーニングでもするかと
思いながらぼんやりとしていたところであった。
「そうは、言うが、李厘はまだ子供だ。面倒をみてやらんと、危なっかしくて、しょうがない」
額に手を当てて、今日の出来事を反芻しているようだ。
「俺にとってはオマエの方が危なっかしいぞ、紅」
独角は直接床に座っていた腰を上げ、紅該児の隣に座った。
「ん?」
「あのとき、ぼろぼろになっていた俺を救ってくれた紅はものすごく輝いていた。こいつにな
ら俺のすべてを預けられると思った」
「何を突然に・・・」
「イイから聞け」
「・・・あぁ」
「何でもできて、いろいろ気が回って、確かに良くできた王子様かもしれんが、オマエという
存在がわかるにつれて、それは表面上の一部分でしかないんじゃないか?って、思うようにな
った」
「独角、それじゃ、俺が本当は弱いのに、無理して『立派な王子様』を演じているといういう
風に聞こえるぞ」
「違うのか?」
体の大きな独角はいすに座っても当然の事ながら、大きい。
ましてやもともと小柄な紅該児の隣に座っていると、上から見下ろす形になってしまう。
そのがっしりとした体格から発せられる視線は真剣ではあるが、とても優しいものであった。
「・・・そうかもしれんな、だが、それでも俺は『立派な王子様』でなくてはならない。それ
が母上を救う唯一の手段であるし、李厘のためにも俺が引くわけには行かない」
「ホント、オマエは人のことばっかりだなぁ」
せっかく自分の事をもっと見つめろと言いたかったのに、相変わらずの反応で、らしいなと思
いながらも、寂しさを感じた独角であった。
「自分の事など何とでもなるからな。ある意味とらわれのみである彼女らを救わないことには
安心できん」
まっすぐに独角を見つめて言うその言葉に嘘はない。
ただ、もう少し、自分を大切にしてもいいんじゃないのか?そう独角はいつも思う。
ましてや、この男を慕ってやまないあの薬師の女の事を思えば。
「何も全部自分で抱え込むことはない。もっと俺を・・・いや、俺達を頼ってくれ。オマエに
しかできないことばかりじゃないはずだ」
おもむろに紅該児を抱きしめ、背中をぽんぽんと子供をあやすようにたたく。
びくっとした紅該児であったが、その大きな胸に抱かれると、そんなにいやな感じではなかっ
たので、そのままにした。
「そうだ、それでイイ。むやみに警戒するだけでなく、心を開ける相手を持った者はそれだけ
余裕ができる。広く見つめることができる。それこそが俺達の主である紅該児サマだろ?」
ひょいと紅該児の顎に指を当て顔を上に向かせる。
「??」
きょとんとした紅該児の顔はいつもの張りつめた表情ではなかった。
「よし、んじゃあ、俺は来るべき日のためにトレーニングでもしてくるとすっか」
「あ・・ああ、俺も自分の部屋に戻るとしよう」
紅該児はそう言って、先に部屋から出ていった。
「こんなもんでいいのかねぇ?」
誰に言うでもなく、独角はつぶやいた。
「誰にも心を開かなかったあの馬鹿弟の心を溶かした義眼の美人さんよ」

立ち上がってドアを開ける独角の背中は広かった。

FIN

2000 02/20 written by ZIN
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