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傘(八戒)


「あ・・・」
夜も遅くなり、だいぶ街の空気が静かになった頃、寝床に入ったばかりの八
戒はおもむろにがばっと起きあがり、何かを思いだしたような声を出した。
「んぁ?どうした?」
今回は2人部屋。
隣で寝ていた悟浄は寝入りの瞬間をじゃまされ、少しゴキゲンがよろしくな
いようだ。
「敵の気配か?」
「いえ・・・そうじゃないです。夕方行ったお店に傘を忘れてきてしまいま
した」
「なんだよ・・・そんな事なら明日でいいじゃねぇか。俺は寝るぜ、おやす
み」
「はい、お休みなさい・・・悟浄」
八戒はしばらく寝るか起きるか悩んだが、結局取りに行くことに決めた。
確か、あの店は夜12時までやっていたはず。
入り口にそう書いてあったのを八戒は覚えていた。
そぉっとベッドから滑り出し、風邪を引かないように上に羽織る物を着込む。
「いってきます」
小さな声で悟浄に出かける旨を伝えると、八戒は宿を出た。
外は小雨が降り始め、これから本格的に振ることを予感させるべく、星一つ
ない曇り空であった。
雲が厚いながらも、薄明るいところを見ると、雨でなければ大きく月が出て
いたことだろう。
八戒はその月を見られないことを少し残念に思った。
「急がないと本降りになってしまいますね」
傘は置き忘れてきた1本しかない。
普段は滅多に雨は降らないし、お金に困っているわけでもないので、その都
度買うようにしていた。
忘れたところで対した出費でもないのに、なぜか、今回八戒はその傘を取り
に行かなければならないような気がした。
なぜかは解らない。
自分でも自然に体が動いていたのだ。
特に想いでのある傘ではない。
悟浄にもらったわけでもなく、三蔵に渡されたわけでもなく、ましてや悟空
のプレゼントというわけでもない。
そんな何でもない傘をなぜか、無性に取りに行きたくなったのだ。
あめが降り始めた。
小雨から少しずつ大きな雨粒になってきている。
宿から傘を忘れた店までは10分弱。
走っていけば間違いなく本降りになる前につけることはわかっていたが、八
戒はあえてゆっくりと歩くことにした。
一人で街を歩くなんて、あまりないなぁと思いつつ、歩みを進める。
一人が孤独だと思って、誰でも良いから一緒にいる人を求めていたときもあ
った。
いつもにぎやかなのが当然になってくると、いざ静かな時を欲しいと思って
も、それをなかなか時は許してくれない。
贅沢な悩みだと思う。
昔では考えられないことだ。
いればいたで一人の時間が欲しくなるし、いなければいないで一人の時間が
寂しくなる。
「困った物ですね」
思わず口に出してしまい、自分の考えに苦笑する。
誰が聞いているわけでもない。
夜も更け、街の灯りはほとんど消えている。
大きな店もほとんどが終いの準備を終わり、24時間運営している店と、夜
から始まった店の並ぶ場所はまだまだ明るい。
そのコントラストが、時代の違いなのかと八戒は長く時を経た人のように考
えてしまう。
雨は段々強くなってきた。
傘を忘れた店はもう近い。
繁華街の入り口にある店で、雑貨と食料品が主な品目だった。
ずぶぬれになる前には着くことができそうだ。
一人であるく時間。
帰りもまた一人。
たまにはそんな行動も良いだろう。
これは神がくれたほんのひとときなのかもしれない。
それを楽しもうじゃないか。
からん・・・
店の扉を開ける。
「ふぅ・・・こんばんわ。傘を忘れたと思うのですが・・・」
「はい、いらっしゃ〜い!!・・・お?、昼間のにぃちゃんだね。わざわざ
取りに来たのかい?」
「えぇ、ありますか?」
「あいよ。今日はあいにくあんまり客も来なかったからな。そこに刺さった
ままじゃないか?」
「あぁ・・・ありました。ありがとうございます」
「夜も遅いからな、気を付けてかえんな」
「ありがとうございます。それでは・・」
雨は本降りになってきた。
足下が濡れるのは仕方ないだろう。
でも、なぜか八戒はそれでもいいと思った。
「帰りますか・・」
暗闇に八戒の姿は紛れていった。

FIN

2000 11/18 written by ZIN
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