「ちぇ・・まずったなぁ」
自分の母親といえども、この女は一番苦手だ。
そう思いながらも呼び出しに応じないわけには行かない。
牛魔王の蘇生実験におびただしい量の妖怪を投入し、犠牲にしてきた。
可能性をすべてためすためには手段を選ばない女なのだ。
自分の生き方とは相反する母親に呼ばれたのはつい先刻のことだ。
紅該児と独角は遠征中、やおねは姿が見えない状態での呼び出しに少し待っていてもら
おうと思ったが、すぐ来るようにとの言葉に明確に断る理由も見つからず、応じてしま
ったことを後悔し始めていた。
「気を付けて行動をしなさい、あなたがすべての鍵を握っているかもしれませんから」
あの緑色の綺麗な目をした男がそう言っていた気がする。
そう思いながら、立場上どうしようもない自分に悔しさを感じる。
「さぁ、こっちへ・・・」
なぜか、いやな予感を感じつつも、体が導かれるままに進む。
この部屋に入ったときから、すでにこの女の術中にはまってしまっていたのかもしれな
い。
そんなことを考えてもどうしようもない事をすでに悟り始めていた。
「よくきてくれたわ。ようやくこの人が復活できそうなの。私はこのためにどんなこと
でもしてきたわ。あなたももちろん協力してくれるわよね」
勝手にしてくれといいたいのになぜか無言でうなずいてしまう。
「ありがとう、じゃあね、李厘」
目の前に手がかざされると全身の力が抜ける。
『ごめん、約束、守れそうにないや』
そんなことを思いつつ、意識が遠くなっていった。
「ふふふ、コレで完成。あなた、ようやく会えるわね」
李厘を抱きかかえた玉面公主の不適な笑みとシステムを維持する動力の低音が実験室に
満たされていた。
FIN
|