おでかけ(花楠&八戒)



「おはよう、ご飯ができてるわよ、悟能」
八戒が目を覚ますと、花楠が柔らかな笑顔で彼を起こしにきたところであった。
「おはようございます、花楠」
花楠は、エプロンで手を拭きながら、軽く八戒の額にキスをすると、「おはよ」と軽くつぶやいて、キッチンへと戻っていった。
八戒が上半身を起こし、ふとベッドの傍らをみると、ヘアピンが一つ枕元に落ちていた。
昨晩花楠が落としたものであろうそれを拾うと、八戒は大きめのトレーナーに袖を通し、大好きな姉が作ってくれた朝御飯を食べにキッチンへと向かった。


「花楠が作ってくれるご飯はいつもおいしいですねぇ」
他愛のない話をしながら、八戒は食を進めつつ、そんな話を始めた。
「ありがと、よく毎日そのセリフがでるわね、特に何かしているわけじゃないのよ」
「だからこそですよ、こないだいった店なんかは、ここいらで一番の店だといっておきながら、全然おいしくありませんでした」
そういってむくれる八戒をみて、花楠は苦笑した。
「だって、花楠の作ってくれたご飯の方がよっぽどおいしいんですから」
「そうかしら?そんなにほめても、なにもでないわよ。でも、せっかくほめてくれているんだから、お茶のおかわりを持ってくるわね」
「それで十分ですよ。あ、片づけは僕がやっておきますから・・・」
花楠はキッチンに行き、お茶を入れてきた。
「じゃあ、お願いね、私は今日この後洗濯をしてから買い物にいくけど、悟能はどうするの?」
「僕も今日は休みですから、買い物におつきあいしましょう、こないだみたいに町中で転ばれては心配ですからね」
その言葉に花楠は真っ赤になった。
「あのときはたまたま荷物が多くてちょっと足下が見えなかっただけよ。ちゃんと気をつけるようにしているから、もうああいうことはないわ」
「まぁ、いいじゃないですか、たまには手伝わせてくださいよ」
「そういうことならいいけど、せっかくきてくれるんだから、今日はたくさん買い物しちゃおうかな?荷物もちさんもいることだし」
そういって花楠は少し意地悪そうな視線を八戒に向けた。
「おお、こわこわ」
八戒はそういって、残ったお茶を飲み干すと、まず自分の食器をまとめて、洗い場へと持っていった。
「ごちそうさま」
花楠も自分の分を食べ終わると、洗濯物を洗いに水場へと向かっていった。


八戒が部屋で本を読んでいると、花楠が洗濯物を干している姿が見えた。
八戒の部屋は二階にあり、そこからは、下の洗濯物干し場が一望できるようになっているのである。
二人分の洗濯物しかないので、さほどの時間をかけずに花楠は洗濯物を干し終わる。
きれいに並べられた洗濯物を眺めていると、心も洗われるようだと八戒はぼんやりと考えていた。
手にしている小説は、途中までいつも読むが、花楠を眺めているうちにそれはまた忘れてしまう。
自分が花楠を愛していることにいつも気づかされるが、それは間違いであってほしいと思うのも、その瞬間なのだ。
自分たちは姉弟であるという紛れもない事実。
これは、もう自分たちの力ではどうしようもないのだ。
しかしながら、愛してしまった相手を今更変えることはできない。
それはお互いにわかっていることであった。
だからこそそれを確かめあうために夜毎に体を重ねる。
お互いをはっきりと感じるにはそれが一番だと信じて・・・
そんなことに思いを馳せながら、八戒がぼぉっとしていると、花楠が、八戒の部屋に入ってきていた。
ぼぉっとしながら外を眺めている八戒に花楠は少し起こった口調で語りかけた。
「こら、悟能!買い物に出かける用意はできたの?!」
花楠が入ってきたことにすら気がつかなかった八戒は、その大きな声にびっくりして椅子から滑り落ちそうになった。
「??!!花楠?」
八戒は間抜けな反応をしつつ、椅子から起きあがって、部屋に入ってきた姉を見つめた。
「全く、私と一緒に買い物に言ってくれるっていったじゃない?あれは嘘だったの?」
「そんなことはないよ、花楠、ごめん、ちょっと、考え事をしていたものだから・・・」
ふぅ、とため息をつくと、花楠は、仕方ないわね。という顔をして、八戒に告げた。
「もう少ししたら、出かけるわ。それまでに用意をしておいてね」
「うん、着替えるだけだから、すぐに用意できるよ。下で待ってる」
「それでよし、待たせるんじゃないゾ」
八戒の額をちょっと指先でこづくと、花楠は、スリッパの音をぱたぱたとさせながら、下へと降りていった。
「あーあ、ちょっと怒らせてしまいましたか?」
肩をちょっとだけすくめながら、八戒は苦笑した。
用意しておいたベージュのセーターに、青いコートを羽織る。
花楠が、去年プレゼントしてくれたコートだ。
「さてと、待たせるとまたなに言われるかわかりませんからね」
八戒はそれでも愛する人と出かけるのがうれしくてたまらないと言う表情をしながら、階段を下りていった。
花楠は、ちょうど、
玄関で靴を履いているところであった。
「あれ?待っていてくれるのでは?」
「なにいっているの?当然、悟能のでてくるところを見計らって、用意をしているのよ。これならばっちりでしょ?」
「たしかに・・・」
八戒は苦笑しながらも、花楠が自分と出かけるのを楽しみにしていたことを読みとった。
靴がきれいにしてあり、さらにははきやすいようにそろえてあったからである。
「じゃあ、いきましょうか」
「さぁ、はやくぅ」
「はいはい」
八戒はその用意してくれた靴を履き、花楠を伴って、町へとでた。
この上ない笑顔とともに・・・


「結局こんなもんかな?」
「こんなもんといっても結構買ったじゃないですか?」
「でも、せっかく悟能がつきあってくれるって言ったんだから、いろいろ買い込んでおけばよかったなぁ」
「まぁ、今日はこの辺で勘弁してくださいよ、姉上」
八戒はちょっとふざけた口調で言ってみる。
「では、これぐらいで許してつかわそう、ありがたく思うのだぞ」
「ははぁ、ありがたき幸せ・・・」
しばらく沈黙が流れる・・・・・

「ぷっ、」
「くくくっ・・」
「あはははは」
「ふふふふふふ・・よく知っていましたね」
「あー、おっかしかった」
「なんだかなぁ」
「さて、今日は腕によりをかけて、料理を作っちゃうわよ」
「それは楽しみですねぇ」
「あ、悟能、今日はちゃんと全部食べてもらうからね」
「え?だって、あの量は一人分じゃないですよぉ・・・」
「だって二人しかいないんだからしょうがないじゃない」
「まぁ、努力はしてみますけどね。それより、花楠がもう少し食べた方が、効率的では?」
「なに?そんなに私を太らせたいわけ?」
「それはちょっと・・・」
「じゃあ、がんばって食べてね、悟能」
そんな話をしながら二人は、夕日のきらめく繁華街を後にしていった。
これはまだ二人が幸せだった頃の話・・・
このすぐ後に迫りくる恐怖にまだ二人は気づいていなかった。

FIN






1999 02/22 wrihted by ZIN
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