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音のない世界(八戒)

カラン・・・
静かな夜のひとときにグラスの氷が溶けて音を立てる。
すでにほぉって置かれて何分経っているのだろうか。
グラスの表面には汗が落ち、滴がテーブルに小さな水たまりを作り始めている。
中身は琥珀色のオールモルトウイスキー。
ロックであることはグラスの大きさと、氷が溶けてもなお失われないきれいなその色
に証明されている。
量から考えるに、シングル?
いや、すでに飲んだ形跡があることから、ダブルであろうか。
そもそもそんな事は考えずに注がれたと言った方が正しいかもしれない。

緑色のきれいな瞳が窓の外を遠く見つめている。
顔の色が変化していないことから、本人はさほど酔ってはいないようだ。
グラスがもうずいぶん空けられていないところを見ると、あまり口にしてはいないの
かもしれない。
普段は片めがねをしているその右目には今はなにも付けられていない。
テーブルの上には宿で使用する普通のめがねが置いてあった。
眠れないのだろうか。
机に用意されたいすに座り、肘掛けに軽く腕をかけながら、彼はほとんど動かなかっ
た。
宿が郊外であることもあり、非常に静かな夜を与えてくれる。
月明かりがとても映える美しい晴れの夜だった。
いくら眺めていても飽きのこない月。
それを彼はずっと眺めていた。
普段は滅多に飲まない酒を少し口に付けながら、一人の時間を楽しむ。
愛する人と共にいることはもちろん幸せには変わりないのであるが、それと共に自分
を見つめ直す時間は非常に大切なのであろう。
開けっ放しの窓から軽く風が吹き込む。
きれいにそろえられた前髪が軽く右目にかかり、彼はそれを軽くはらう。
双方緑色の瞳であるが、多少右目が濁って見えるのはそれが人工の物であるからだろ
う。
所詮は自然の美しさには変えられる物はない。
そう思いつつも、自分でえぐり出したその右目に後悔はしていない。
ふと右目に手を当てた瞬間、そこまで考えてしまい、どうしても考え込む自分に思わ
ず苦笑してしまう。
これはもう癖なのかもしれない。
どうしてもいろいろなことを考えてしまう。
あらゆる可能性を検討して、最前であると教えられた事を選択しようとしてしまう。
それだけではだめなのは十分にわかっているはずなのに、どうしても・・・
と考え始めたところで、また自分の思考の迷路にはまりつつあることを自覚する。
素直にこの静かな時を楽しみたい。
そう思ったはずなのに・・・
よけいなことを考えてしまうことが多すぎる。

カラン・・・
またグラスの氷が溶けてバランスを失いくるりと回って、中でその組み合わせを変え
る。
そのグラスを手に取り、滴を袖に垂らしながら、一息に中身をあおる。
軽く手を振り、ついた滴を払いながら、いすを立って窓を閉めた。
ガラス越しに見える向こう側の景色は同じ静けさを持ちながらも、まるで別世界のよ
うな雰囲気を感じさせる。
直にふれあう時と、こんなにも違う物か・・・
そんな事を考えながら、彼はベッドに潜り込んだ。
宿の人が十分に干しておいたのか、ベッドの中は太陽のにおいがした。
夜の静けさの中で太陽のにおいに包まれながら、彼は静かに深い眠りに落ちてゆく。
今日はお休み。
そして、明日はおはよう。
また元気な姿で西を目指そう。
そう、人生という旅はまだまだ続くのだから。

FIN

2000 05/08 written by ZIN
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