その少女凶暴につき(李厘&八戒)




「なぁなぁ、オイラってさぁ、やっぱみんなに嫌われてんのかなぁ」
「そんなことは無いんじゃないですか?一応家族みたいなものですし・・・って、何であなた
がここにいるんですか?!」
昼下がりの宿屋、八戒が窓際のいすに座ってぼんやりと窓の外を眺めていると、ふと隣から声
がかかった。
「それはそれとして」
李厘はにっこりと最高の笑顔を八戒に向ける。
「えーーと・・・だから”それはそれとして”じゃなくて、なんでアナタがここにいるか、聞
いているんですケド」
「お兄ちゃんは母上に何か言われて出かけちゃったし、独角は鍛錬がどうとか言っていたし、
やおねちゃんはお店があるらしくて、オイラ一人だけになっちゃったんだよね。母上とニィは、
なんかヤバそーな話しているから、めんどくさくなって逃げて来ちゃったんだ」
「ありていに言うと、暇つぶしに来たと?」
「ま、そんなとこ」
悪びれずに言う。
そこが良さでもあり、欠点でもあるのだが・・・
「でもって、さんぞーはいないし、お猿さんは遊びに行っているみたいだし、あんたのカレシ
はほかの女のところでしょ?さみしそーだなぁってね」
くすっと笑う李厘は十分にかわいかった。
「三蔵と悟空はともかく、悟浄を彼氏というのはちょっと・・・」
「えぇ?だって、否定はしないでしょ?」
面と向かってとんでもないことを言う。
「やおねちゃんが言ってたも〜ん。八戒さんは心に決めた人がいる。私と同じだって」
「へぇ・・やおねさんがそんなことを。さすが、よく見てらっしゃる」
「やっぱし、八戒とやおねちゃんはよく似ているね。だからオイラ大好きなんだ」
李厘は八戒の背中から、抱きつく。
三蔵の時のようにぎゃいぎゃいわめくのではなく、寄りかかるようにして後ろから体重を預け
る。
「う〜〜ん、敵の方に告白されてもねぇ」
頬を掻きながら、反応に困る李厘の態度にさすがの八戒も困り果ててしまった。
「ちっちっち、そう言うのとはちがうんだな。やおねちゃんと同じって言ったでしょ?なんて
言うのかなぁ?安心するって言うか、そんな感じ」
自分で明確に違うといいながらも、それが何かははっきりと言えない。
恋愛の対象ではなく、安らぎの対象だといいたいのだろうか。
「で、最初の疑問なんだけどさ、オイラみんなに嫌われているのかなぁ?」
「気になります?」
ふふっと思わず意地悪なほほえみをしてしまうのはが八戒が三蔵の性格をよく知っているから
だ。
「あ〜、なんか、それって意地悪いなぁ。オイラは真剣に悩んでいるのにぃ」
根本的に立場の違いとか、お互いの関係とかではないのだ。
好きか嫌いか、一緒にいて気持ちいいかどうか、自分を中心に物事を考えているのだ。
ある意味、悟空に一番近い存在なのかもしれない。
それを自分勝手な考え方と見るか、素直な考えと見るか、感じる者にとってその印象は上下が
激しいものになるだろう。
八戒は少なくともこの娘が嫌いではなかった。
ただし、三蔵が好きかどうかは別問題である。
「少なくとも僕はアナタのことは好きですよ」
「ん?ありがと、でも、結局のところ、オイラって、どんな存在なのかな?お兄ちゃんとは母
上が違うし、やおねちゃんや、独角みたいに親が死んでいるわけでもない。なんとなく、居場
所がないんだよねぇ」
そう言う李厘は少し寂しそうに見えた。
「確かにそう言う視点で見ちゃうと、そうかもしれませんが、今更悩むことでは無いのではあ
りませんか?」
「ん?どういうこと?」
八戒のその言葉に李厘は多少興味を持ったようだ。
「簡単なことです。いま、お兄さんをはじめ、アナタの一緒にいるほかの3人がアナタに対し
てどう思っていて、どう言っているかを考えてみてください。おそらくお兄さんは大事な妹だ
とおっしゃっているでしょうし、やおねさんは僕と話すときだってアナタのことを心配してい
るぐらいですから、言うまでもないでしょう。独角は殆ど話したことがないのでよくわかりま
せんが、悟浄のお兄さんですから、そんな細かいことにはこだわらず、純粋にお兄さんの妹と
いうことで、一緒に大事にしてくれているのではありませんか?」
「・・・」
しばらく腕組みをして考え込む李厘。
「立場とか、過去の境遇とかを考える前に今自分がどう思われているかを整理してみれば、少
なくともアナタがあの人達の中で嫌われていないことがわかるはずですよ。むしろ、彼らの愛
情をわかってあげないのは罪なことです」
僕もそうでしたから。とは八戒は言わなかった。
「そうだね、そう考えてみよう。お兄ちゃんはいつもうるさいけど、それだけ気にしてくれて
いるってことだし、やおねちゃんや独角もオイラのことを必ず気遣ってくれる。そんな気持ち
をわからないオイラじゃないモン。立場より、気持ち・・・そうだね、そう言うことの方が大
切なんだ」
うんうんと、一人うなずいて納得する李厘。
「ホラ、そろそろ帰らないと心配性のお兄さんが迎えに来ちゃいますよ。また誰にも言わずに
出てきたんでしょ?」
「そうだね、これ以上ここにいたら、八戒にまで迷惑かかっちゃうね。みんなも心配するだろ
うし、もう帰るよ。ありがと、やっぱし八戒に相談してよかったよ」
そう言って軽く八戒の頬にキスをすると、李厘はあっという間に部屋から出ていった。
「はぁ・・・相変わらず嵐のような人ですねぇ」
再び窓の外を眺めながらゆっくりといすを傾けた。
「さて、あの人達はいつ帰ってくるんでしょうかねぇ」
いつも通りの昼下がりがまた始まった・・・

FIN





2000 01/28 wrihted by ZIN
1994-2000 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved
MEGA-Company本館へ 同人のページへ