「無能な神など殺してしまえ」
そんな話を聞いたのはいつのことだったか・・・
いや、ひょっとしたら僕が言ったのかもしれない。
ジープを運転しながらふと、そんなことを考えてしまう。
相変わらず三蔵は助手席で仏頂面をしているし、悟浄と悟空は後ろで何かをはしゃい
でいるようだ。
そういえば、悟浄だったような気もするな・・・
少なくとも三蔵は神をどうこうしようとかそもそも思わないだろうし、悟空に至って
はそういう思考回路すら持っていない可能性の方が高い。
そうすると、僕か、悟浄ということになるのだが。
「なぁに難しい顔してんだよ、八戒」
悟空との遊びに飽きたのか、その背中越しに悟空が何か言っているのを気にもとめず
に悟浄が話しかけてきた。
「いえ、別に何でもないんですが、そんなに怖い顔してました？」
「ああ、そりゃあもう、どっかの生臭ボーズと同じぐらい仏頂面でしたよ」
アハハと、いつもの笑いで帰せば、悟浄もいつもの笑顔でさらっと流す。
「ホゥ、それは俺に対する挑戦か？」
懐に右手を伸ばす三蔵に悟浄は両手をあげて降参の意を示す。
「えぇ？俺はホメてんのよ？仏頂面って言うのは仏に近いって事なんだろ？」
珍しく学のある話を悟浄がし始める。
「なになに？難しい顔をしてると神様になれるの？」
面白い話と思ったのか、悟空が話に乗ってくるが、どうやら、論点が少しずれている
らしい。
思わず苦笑してしまう。
「仏と神は違う」
三蔵は特にそのことについて細かく説明する気は無いようだ。
自分の出番かな？とも思うが、ふと考えてみると、そもそも神って何だろうと思って
しまう。
仏というのはたぶん人が死んで、肉体を失ってから、なれる物かな？ぐらいには考え
つくが、そうすると、神って、なんだろうかという問題にぶつかってしまう。
実際に三仏神にあうまでは自分も神という存在は結構あやふやな物としか認識してい
なかったし、むしろ、会った時も「普通の人たちなんだなぁ」という印象しか受けな
かった。
結局、一般の人たちが思っているほど、神様って言うのは全能では無いのかもしれな
い。
いや、かもしれないのではなく、そもそも神が全能であると誰が決めたのか。
人が求める神と、神本人の意識が違うだけなのかもしれない。
それは片思いの恋人を思う気持ちに似ているのかもしれない。
理想を大きく考えてしまい、過剰な反応を期待する。
期待した反応が得られないとそれを相手のせいにする。
それはそもそも自分の作り出した幻にすぎないのに。
そう考えると、自分たちは勝手に神を考え出し、あがめているが、神は自分自身のた
めに行動しているにすぎないという結論にたどり着く。
たぶんそれは正しい。
人の願いを何でも聞き遂げていたら、それは神なのではなく、ただのお人好しにすぎ
ない。
「無能な神など殺してしまえ」
その言葉は実際に存在する神に対して刃を向けるのではなく、自分自身の中に勝手に
作り上げた妄想を殺すことを意味するのかもしれない。
現実を見つめ、何をするべきかを自分で決める。
自分で作り上げてしまった、精神的に頼ってしまう存在を殺し、自分で立ち上がらな
ければ、思い焦がれる神は永遠に無能なままだ。
「無能な神など殺してしまえ」
その言葉は今となっては誰の言葉であるか忘れてしまったが、正しい言葉なのかもし
れない。
総結論づけるとどうもすっきりするようだ。
勝手に納得してくすりと笑うと、全員が自分を見ていることに気がついた。
「おまえ、どうした？にやにやして」
「八戒一人で笑って、へんなの〜」
「なにかつかんだようだな」
三蔵は多少気がついているようだ。僕の心の動きに。
それぞれの反応がそれぞれの個性を象徴しているようで気持ちよかった。
それでこそこの人たちといることには価値がある。
「やぁ、町が見えてきましたね。今回の運転は結構長かったので、僕もジープも疲れ
ちゃいました。ゆっくり休める町だとイイですね」
論点をずらしてやっても誰も文句を言わない。
それぞれがそれぞれの思いを口にし始める。
あの町ではどんな出会いが待っているだろう。
どんな出来事があるだろう。
神など存在してもしなくても自分は間違いなく存在する。
まず、それを考えなくちゃ。
そう思って、八戒はジープのアクセルを踏み込んだ。

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