翌朝(悟浄&三蔵)




「なぁ、ちょっと外に出ねぇか?」
珍しく早く起きてきた悟浄がいつも通り茶を片手に食堂の隅を陣取りながら新聞を読んでいた
三蔵に声をかけた。
あまりにも珍しい相手のあまりにも珍しい申し出にいぶかしげな視線を向けながらもうなずいた。
「別にかまわんが、どうした?」
悟浄はきょろきょろと周りを見回した。
自分たちしかこの宿に泊まっていないことを知っているはずなのに、この様子は少し変だと、
三蔵は気がつき、顎で促すように食堂の出入り口を指し示した。
悟浄もうなずき、先に外に出る。
「ここにおいて置くぞ」
おそらく厨房にいるであろうおばちゃんに声をかけ、三蔵は湯飲みと新聞をテーブルの上に置
き、立ち上がって悟浄の後を追っていった。
「あいよぉ。いっておいで」
おばちゃんはどこかに出かけるのだろうと、適当な返事を返してきた。
これはこれでやりやすい。

すでにたばこをくゆらせながら、三蔵を待つ悟浄を見つけると、それに相手も気がついたらし
く、先だって歩き始めた。
悟浄にしては珍しく、いつもの出で立ちではなく、黒の上下をまとい、後ろに髪を縛っていた。
早足で悟浄に追いつき、三蔵も並んで歩き始めると、口にたばこをくわえた。
悟浄は自分のたばこの先をそのまま三蔵に近づけた。
「ん?」
三蔵はその意図をすぐに気がつき、火をつけようとしたライターを懐に戻し、自分のたばこの
先と悟浄のたばこの先を合わせ、自分のたばこに火をつけた。
「昨日八戒を抱いたか?」
「あぁ?」
のっけの質問に多少面食らいながらも、三蔵はあまり変わらない調子で答える。
「不躾な質問だが、こたえてやる。ノーだ」
「そうか・・・そうすると・・・」
悟浄にしては珍しく、思案下に顎の舌に手を当てたまま、また無言で歩き始める。
「いきなり人を外に連れだしたとしたら、そんな質問か?」
三蔵は先を歩き始めた悟浄に問いかけるが、自分の考えに没頭しているらしく、悟浄は反応を
かえさない。
すぱぁん!!!
通りに突然乾いた音が響きわたる。
三蔵があまりに反応を返さない悟浄に業をにやし、ハリセンで、悟浄を後ろからひっぱたいた
のだ。
「なぁにしやがる!!」
さすがに自分の考えを中断され、突然ひっぱたかれたのが気に障ったのか、悟浄も三蔵にくっ
てかかる。
「なにが、なぁにしやがるだ。自分で人を連れだしておいて、そのいいぐさは。なにが気にな
ってあんな質問をしたあげくに、人を無視してやがる?」
悟浄は少しだけ、三蔵から視線をはずした後、歩きながら話そうと、目で合図をして、また歩
き始めた。
「で?」
三蔵は早く話を終わらせろと言わんばかりの口調で、先を促す。
「それがな、今日、八戒の部屋を覗いたら、だいぶ寝乱れた後があったからてっきりオマエが
夜中に八戒を襲ったものだとおもってさ」
そのセリフを聞いた瞬間三蔵は額に手を当て、ため息をもらした。
「ふぅ、おまえ、いい加減朝一番で八戒の部屋を確認するのやめろ、なに考えてんだ」
「当然八戒の健全な生活」
にやっとした表情で、自分の八戒にした行為を棚に上げ、平気でとんでもないことをのたまう。
「俺はオマエと違って分別があるからな。よけいな事はしない」
「やっぱりそうか・・・そうすると、悟空と言うことになるが・・・」
「それはない。昨日ふてくされたまま、部屋に閉じこもったままだったし、部屋の前に置いて
あった飯もしっかり平らげていた。たぶんそのまま寝ていたはずだ」
「さっすが、よく観察していますねぇ」
冷やかすような顔で三蔵をからかう。
「動物を管理するのも俺の仕事のウチだからな」
さらりとかわす三蔵。
「冗談はさておき、そうすると、あの八戒はいったいどういうことだ?」
「俺が知るか。おおかたうなされでもしたんじゃないのか?昨日は珍しく手傷を負ったらしい
じゃないか」
「俺が部屋に引っ込んだ後、話は聞いているんだな。まぁ、じゃあ、そんなとこか。あいつは
結構悩み出すと止まらないからなぁ。うーーん・・・」
「ま、俺たちが悩んだところで、奴の悩みが解決するわけでもあるまい。ほおっておけば、そ
のうちおきてくるだろう」
街を一回りしたところで、話には決着が付いたようだ。
「俺は食堂にもどるが、おまえは?」
「俺は適当に街をまわってくるわ。珍しく悩んだから、頭がだりぃよ。ちょっとあそんでくらぁ」
「ほどほどにな」
「あいよ」
それぞれの場所に行く彼ら。
話の中心となった八戒は昨晩の疲れに身体を任せ、未だにベッドの中であった・・・
その疲れがなぜ発生したのかは、八戒のみしか知らない。



FIN





1999 09/12 wrihted by ZIN
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