Between at time(三蔵)



「お〜い、八戒・・・飯は・・・」
久しぶりに自炊の宿に泊まった三蔵はいつものように起きればできているはずの飯が用意され
ていなかったので、頭を掻きながら眠たそうに八戒の部屋を開けた。
「ん・・・いないのか?」
呆然とした起き抜けの頭で少し考え、そこまで来て、ようやく気がつく。
「・・・そういや、今日は出かけるとか言っていたな・・・」
ふぅ、とため息をつくと、何も用意をしていなかった自分に気がつく。
「まかせっきりだったからな」
一応悟空の部屋をのぞくと、彼は未だ夢の中であった。
「のんきなモノだ・・・」
飯のにおいか、腹が減れば起きてくるだろうと、特には起こさない。
続いて悟浄の部屋のドアのノブに手をかけたところで開けるのをやめた。
「別に必要ないか・・・やつだけ用意されていても、それはそれで癪にさわるからな」
すこしだけ顔をしかめると、あきらめたように台所へと向かった。
「さて、台所に立つのも本当に久しぶりだな・・・」
冷蔵庫には一通りの食べ物が用意されていた。
昨日八戒が帰りがけに買っていた物だ。
「俺が作るのを見越していたような品揃えだな」
豆と、野菜を基本とした品揃え、奥にある肉類は今日、八戒が帰ってきてから作るつもりの材
料だろう。
「さすがというか、憎たらしいというか・・・」
そういいつつも、三蔵は目の前に野菜と豆、豆腐を取り出し、調理にかかった。
「思ったよりも、覚えているものだな」
本当に久しぶりに作りながら、三蔵は思う。
師匠が殺されて以来、一人で旅をしているときはよく作ったものだった。
悟空と旅をするようになってからは消化する量が半端じゃないことから、店に入るようになり、
それ以来作っていないことになる。
「4年・・いや、5年ぶりぐらいか」
少しだけ懐かしい感覚に浸りながら、調理を進める・・・
「っと、こんなところか。八戒の思惑通りだろうが、仕方ないな」
できあがった物は野菜の炒め物と、ほうれん草のお浸し、豆腐であった。
悟空も起きてこない。
肉類のにおいがしなかったため、反応しないのかもしれない。
手を合わせると、黙々と飯を食べる。
一人で食べる朝ご飯も久しぶりだ。
八戒や悟浄がいないときはあっても、たいていは悟空がいるし、店や宿で食べるときはほかに
も客がいたりするからだ。
自炊の宿でほかに客などいるはずもなく、無言の朝食が進む・・・
「つまらないものだな・・・」
思わず口をついて出た言葉に自分で苦笑する。
「人とのつながりを嫌っていたはずなのにな」
飯を食べ終わると片づけをし、お湯を沸かす。
お茶を自分で入れるのも久方ぶりである。
テーブルに座り、新聞を広げてお湯が沸くのを待つ。
やかんが音を立て始め、湯が沸いたことを知らせる。
「ふぅ・・・」
熱い茶を入れ、ようやく一息着く。
ズズ・・・
湯飲みから茶をすすった瞬間、三蔵は少しだけ顔をしかめた。
「そんなに入れ方が下手ではなかったはずだが・・・やつの入れ方がそれだけうまいというこ
とか」
時計を見る。
「まだ10時か・・・たまにはこういう静かなのもいいかもしれんな」
午後には八戒も帰ってくるだろう。
悟空も起きてくる。
悟浄は・・・起きるのは夕方かもしれない。
また騒がしくなる。
いつもの日常が戻ってくる。
それまで、少しぐらいはいいだろう・・・
一人のひとときを楽しむのも。

FIN


2000 03/07 written by ZIN
1994-2000 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved