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Glass(八戒&三蔵)


「あのとき・・・」
愛用のマルボロをくわえながら悟浄よろしく三蔵はソファーに態度悪くもた
れかかり、紫煙を吐き出した。
「おまえはたしかこういったな『お揃いの傷なんて僕は御免ですから』と」
「ええ」
コトリとおいたグラスには琥珀色の液体が氷と戯れてカランという音を響か
せる。
まとわりついた滴がむしろ気持ちいい。
ロックで傾けているにもかかわらず、八戒の顔には特に酔った様子はない。
「身体的な話だけじゃ・・・ないな」
テーブルの上にある八戒が置いたグラスとは別の方に手を伸ばしかけ、途中
でやめる。
滴はやがて一つにまとまり、水滴となってグラスを伝う。
いくつの水滴が流れ落ちたであろうか。
「言外まで理解してくれる人は好きですよ」
直接視線をあわせないまま二人の会話は続く。
まるでお互いの言葉は独り言であるかのように、その空間は独特の雰囲気を
持つ。
一人はソファーに態度悪く。
一人はテーブルのいすに行儀良く。
それぞれのポリシーを曲げていないのに、なぜか二人はとても気があった。
「おまえに『好き』だなんて言われると、ぞっとしないな」
珍しく口元に笑みを浮かべ、短くなった口にくわえていたものを金属の皿に
押しつける。
今日の本数はさほどでもないようだ。
改めてグラスを手に取る。
2/3ほど残った濃い琥珀色の液体を半分ほど一気にあおり、酒気を帯びた
息を吐き出す。
ほのかに香る紫煙のにおいも彼の特徴であることを主張する。
少し乱暴にテーブルの上にグラスを戻すと、水滴で作られた水たまりがはね
た。
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
にっこりとほほえむその笑顔には無理矢理作ったつらさは感じられない。
無理しない笑みをもてるようになったことはこの旅を始めた良い結果の一つ
だろう。
両手をテーブルの上で組み、窓の外と、テーブルの上のグラスを見つめなが
ら柔らかい微笑みを話し相手に向ける。
「やはり、後悔するなということか・・・」
目の前に置いたBOXから次の紙巻きを取り出し、口にくわえながらつぶや
く。
ライターを手に取るが、灯は付けないままだ。
そのままため息ともとれる空気を吐き出し、灯を付けたライターを見つめる。
ガスで燃焼される炎は静かな部屋の中でもかすかに揺れた。
細い燃焼先同士を近づけ、煙草に灯をともすと、深く吸い込んだ。
肺の中に一時の安らぎが満たされる。
天井に向かって再び濃くなった紫煙を吐き出すと、八戒の顔を見つめる。
「それだけではないんですけどね」
テーブルの上に置かれたライターを手に取り、灯を付けてみる。
煙草を吸わない自分には滅多に手に取ることが無いものであるが、同居人が
ヘビースモーカーだったこともあり、よく目にしていた。
火を見つめていると吸い込まれそうになる。
それは八戒の昔からの感覚であった。
暖炉であっても、キャンドルであっても・・・
「ん?」
その言葉に疑問を覚え、次の言葉を促す。
ゆっくり流れる時間には数分でさえも特に意識をさせることはない。
ただ紅く灯る紫煙の源が時間が経過していることを教える。
「生きてほしいんです。ただそれだけですよ」
意味が分からずに呆けた顔をしたが、すぐに肩をすくめ、乗り出しかけた体
を再びソファーに沈める。
口にくわえていたものを二本の指で挟み、手を額に当てた。
「くだらん」
「くだらなくはないです」
即答された反論に思わず目を見開いてしまう。
「あ?」
「純粋に生きてほしかっただけです。どちらかというと、後悔するなという
のは後から付けた理由なんですよ。意味としてはその方が受け取りやすかっ
たでしょうけどね」
少しグラスをあおり、液体を自分の喉に流し込む。
傾けた頭に眼鏡が少しずれるので治す仕草もいつも通りだ。
「それは俺に依存していると言うことか?そんなのは御免だ」
額に手を当てていたポーズを元に戻し、再び大きく煙を吸い込んだ三蔵は心
底イヤそうな顔をしてみせる。
「そう言うわけではありません。僕はもちろん、悟浄も、悟空も、みんなあ
なたの前では無様に死んだりはしませんし、ましてやあなたに助けてもらお
うなんて思ってもいません。それは単にあなたに対する負担になりますし、
あなたの信頼を裏切る行為でもありますから」
「それだけ知っていて、なぜ、『生きてほしい』などと言う?」
「簡単なことです。好きなんですよ、あなたのことが。みんな」
「・・・」
その言葉に言葉を失う。
煙草を鉄の皿の上に置き、脱力したようにソファーに体の体重をすべて預け
る。
額と供に押さえた顔から思わぬ笑みがこぼれたように見えたのは、八戒の見
間違いだっただろうか。
「すきなんですよ。だから、生きていてほしいんです」
三蔵の心にその言葉は染みていった。
深く深く・・・

FIN

2000 08/16 written by ZIN
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