俺と供に



紫色の煙が一筋だけ、日が傾いたのがわかるぐらいの間、ずっとあがっていた。
大陸の東に建つ、大きな寺の中で、本堂から少し離れた柱にもたれかかり、一
人の坊主が、じっと床の板目を見つめていた。
白い袈裟をまとい、紫の紋付きからもかなりの高僧であることが伺える。
しかし、その風貌は金色の無造作に伸ばされた髪の毛、女性と見間違うかのよ
うな美しい顔立ちであり、なにより、禁欲が第1である寺で、煙をくゆらす事
ができる存在であることがどう見ても奇異であった。

男は懐に手を伸ばし、大分少なくなった箱から次の一本を取り出した。
「ふぅ・・・」
一人の男をここにつれてきてから、もうどれくらいの時間がたっただろう・・・
帰ってしまえばいい。
そう思いながらも男はさらにおもしろくもなさそうな顔をしながら取り出した
一本に火をつけた。

名前を知らないのか、一人の僧がいやそうな顔をしながら前を通り過ぎる。
階位が上の者には逆らえないのを知っているので、そういう態度で示すわけだ。
そんな視線など、ちりほどもきにしない顔をして、お構いなしに煙を上らせる。
やはり、状況に変化はないようだ。
しばらくして、最後の一本に火をつけようとしたとき・・

「吸いすぎはよくないんじゃありませんか?」
「ようやく出てきたか・・・」
高僧はめんどくさそうに自分が連れてきた男の顔を見た。
「ええ、いろいろ聞かれました。大分興味があったみたいですね。せっかくで
すので、目もなおしていただきました。まだよく見えないんですけどね」
出てきた男は思ったよりも明るく振る舞っていた。
「そうか・・・それでどうするんだ?」
「・・・それは・・・」
片目に包帯を巻いたまま、先ほどの軽い振る舞いはどこへ行ったのか、言いよ
どむ。
「俺はけっして手はさしのべ無いぞ。それでよければ、くるか?」
しばらくの間があった後に、片目の男はようやく口を開いた。
「しばらくあの人と一緒にいようと思います。答えはそれからでもいいでしょ
うか?」
高僧が答える。
「かまわんさ・・・気の済むように生きろ。生きることでどうにかなる。俺は
生きようとしている奴は、別に嫌いじゃない」
「ありがとうございます」

最後の一本に火をつけると、高僧は大きく吸い込んだ。
そして晴れやかな顔で煙を一気に吐き出す。
「いくか・・」
「はい」

FIN






1999 05/15 written by ZIN
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