1994-2000 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved


見上げた月はあまりにも美しくて(三蔵&八戒)


夜・・・
初夏と言うにはすでに暑いぐらいの昼間とは違い、さすがにまだ肌寒い。
三蔵は夜中にふと目が覚め、厠へと向かった。
用を済ませて部屋へ戻る道を歩いていると、廊下から差し込む光があまりに明るいの
で外を見上げた。
そこには大きく丸い月。
「満月か・・・」
きれいに丸く明るいその月にしばらく見とれていると、宿の2階のテラスに人影が見
える。
宿に自分たち一行しか泊まっていないこと、髪の毛が短いことから考えるに、その人
影は間違いなく八戒であろう。
「ん?」
それでも三蔵はその人影に眉をひそめた。
口元には時折赤い灯がともり、煙が口元から吐き出される・・・
あまりにも自然なその行為に一瞬だけそのままにしておこうと思ったが、普段は煙草
と縁のない人物のその仕草に遠目だけでは納得がいかず、確認することにした。
「いやぁ、見つかっちゃいましたね」
”あはは”と相変わらずのほほえみからは特にこれといってせっぱ詰まっている雰囲
気は感じられない。
「”あはは”じゃ、ないだろう?何かあったのか?」
その手元を見ると、三蔵にも見覚えのない銘柄だ。
「ああ、『コレ』ですね」
八戒は三蔵の露骨にいぶかしげな視線の先にあるモノを見せ、くすりとわらう。
口元に灯のともったソレを持っていき、深く吸い込む。
吐き出した煙は紫煙というよりはむしろ緑煙に近いだろうか・・・
それだけ非常に濃い銘柄である。
「『ゴールデンバット』という銘柄ですよ。僕の唯一の煙草です」
三蔵も聞いたことはあったが、口にしたことはなかった。
ハイライトの2倍、マルボロの1.5倍以上は濃い銘柄である。
それを八戒はこともなげに深く吸い込み、うまそうに目を細めると一気に吐き出す。
「オマエが煙草を吸うとはな・・・」
そう言って自分のマルボロを取り出した三蔵に八戒はオイルライターで火を付ける。
「ジッポか?」
「ええ、ビンテージモノです」
またクスリと笑う八戒は宝物を見せびらかすいたずらっ子のようだ。
こんな八戒は見たことがない。
酔っているのかと思えばそうでもないらしい。
「どうした?」
三蔵は何かあったのか?と言外ににおわせてみれば、八戒の言葉は。
「何でもありませんよ。あまりにも満月がきれいだったのですが、雲一つなかったの
で、味気ないと思って、自分で雲を作ってみたんです」
そう言って月を見上げる八戒の言葉に嘘はないようだった。
「継続して吸っているわけでは無かろう?」
「ええ、滅多に口にすることは有りません。でも、煙草を吸う僕も僕なんです」
携帯灰皿をポケットから出し、中に灰と吸い殻を入れるあたりはしっかりいつもの八
戒である。
次の一本を取り出し口にくわえると、三蔵に灯のともし先を出し、マルボロの先から
明かりをもらい受ける。
「こんな僕はお嫌いですか?」
三蔵は深く煙を吸い込み、そしてソレを吐き出してこう言った。
「いいんじゃねぇか?そんなもんだろ?」
「ええ、そんなもんです」
八戒はもう一度目を細めて月を見上げる。
「きれいですねぇ・・・」
「ああ」
満月の光に二つの煙はどこまでも昇っていった。

FIN

2000 05/26 written by ZIN
1994-2000 MEGA-Company Co.Ltd ALL Right Reserved

Main Site  ■Circle Site  ■GAME News Site  ■Cyber Drink Site
The Main System Produced By MEGA-Company. Generated from HAZER Operating System.