Natural Yourself(八戒&三蔵)




「どうしたんですか?手なんか見つめちゃって」
階段の一番下の段に腰掛け、自分の手をじっと見つめる三蔵を見かけ、八戒は声をかけた。
いつも慄然としている三蔵にしては珍しい光景に思えたからだ。
「あぁ、うまく生きられないものだな。と、思ってな」
八戒の問いかけなどには興味なさげに三蔵はぼそっとつぶやいた。
「じっと手を見る・・・ですか。哲学ですね」
八戒はそう言って、ほほえんだ。
「哲学・・・そうだな。自分で自分を考えるからこそ自分が存在する。確かにそうなのだが・
・・」
三蔵はそこで言いよどんだ。
「あなたらしくもない。どうしたんですか?」
そこで、ようやく三蔵は八戒の顔を見上げた。
「俺らしいとはどういうことだ?」
あまりにまともすぎ、かつ三蔵から出てくる質問とは思えなかったので、八戒は非常に驚いた。
「その問いに答えるのはあなたの専売特許では?」
苦笑しながらも八戒は三蔵の言葉を促す。
三蔵は少し間をおいてから答えた。
「そうかもしれんな。仏道に帰依する者として、人に教えを説くのは確かに専売特許と言えな
くもない。だが、所詮は坊主といえども人間だ。自分が自分であることを証明などできない」
やけに考え込む三蔵を八戒は珍しいものを見るような目で見ていたが、やがて何かに悩んでい
ることを感じ取っていた。
「何かあったのですか?」
三蔵は答えない。
八戒は三蔵の横に腰掛け、黙って三蔵の答えを待った。
「・・・何もないんだ」
「は?」
「俺の人生には何ら変化がないんだ。おまえらとあってから、自分の生というものに関心を持
ったのはイイが、おまえらほど変化に富んだ人生でもないしな」
端から見ればあなたの人生も十分に変化に富んでいるでしょうに。と八戒は思ったが、口には
出さなかった。
「どういう意味ですか?」
「俺は俺でしかない・・もっと言うならば、俺は人間でしかないんだ」
俺は人間でしかない。その言葉に八戒は少しだけ三蔵の気持ちがわかったような気がした。
そう、三蔵は人間なのだ。
人間のまま。と言うべきかもしれない。
「それでいいんじゃないですか?」
意外な答えに三蔵は自分の手に戻りかけた視線を八戒の顔に戻す。
「なにも、人間以外だからって、生き様が正しいとは限りませんよ。まぁ、妖怪になりたいと
いうのであれば、別ですけど・・・」
そう言って八戒は自嘲気味に力無く笑った後、遠くを見つめた。
「今をどう生きるか、明日をどう生きていくかの方が大切じゃないですか?三蔵はそのままで
十分輝いていますよ。『存在そのものが』というべきでしょうか。あなたらしくとはあなたが
決めることです。少なくとも僕たちを引きつける力があなたにはある。それではあなたがあな
たらしく生きている証にはなりませんか?」
「そうだな・・・」
また三蔵は自分の手を見つめた。
「下を向いていても何も始まらないと最初にオマエに話をしたのは俺だったな。そうだ、前向
くことは大前提、そしてその前に何を求められるかは自分次第だということを忘れていたよう
だ」
三蔵は立ち上がった。
「つまらない姿を見せたな」
「いえ、そう言うあなたも好きですよ」
「勘弁してくれ、気色悪い」
「ふふ」
二人は連れだって歩き始めた。
自分たちの場所へ戻るために・・・

FIN


2000 03/15 written by ZIN
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