夕方その1(三蔵&八戒)




「いよぉ、帰ったぜ」
「ただいま・・・です」
それぞれ対照的な挨拶で宿屋に戻ってくる八戒と悟浄を三蔵が1階の食堂で出迎える形となっ
た。
「あぁ・・」
茶を傾けながら、いつものように軽く一瞥して今まで見ていたTVに視線を落とす。
その一瞬後に三蔵にしては珍しく驚いた表情で二人の方に顔を向けた。
「おい!どうしたんだ?その格好は・・」
三蔵が驚くのも無理はない。
悟浄が着ている上着は草まみれ、八戒に至っては上着が無く、悟浄のベストを素肌に直接つけ
ているだけの状態であった。
「なんでもねーよ・・・」
悟浄が言おうとした言葉を遮って、八戒が”任せてください”と目配せをする。
「いや、ちょっとどじっちゃって」
三蔵はその二人のアイコンタクトを見逃さなかったが、あえて追求することはしなかった。
二人がなにをやってきたかはだいたい想像がつく。
「で、なにをどじったって?」
見ているのか見ていなかったのか、つけっぱなしだったTVの電源を切り、いままでTVの方
に向けていた身体を二人の方に向け直して、テーブルの上で、指を組んだ。
「けっ、八戒、後は任せたぞ」
そういって、悟浄はだるそうに階段を上がっていき、自分の部屋へと戻っていった。
あの様子であれば、今晩は出かけることも無いだろう。
「こんな時間まで、どこに行っていたんだい?」
宿屋のおばちゃんが三蔵の茶を入れ替えるのと、八戒のために茶を持ってきた。
「ん?ああ、すまない」
三蔵はかるく礼を言う。
「ありがとうございます。街の外の街道に沿って、南の森の入り口あたりまで行って来ました。
ちょっと気になることがあったもので」
頼んでもいないのに気を利かせた茶が出てきたので、八戒の軽く礼を言ってから、自分がどこ
に行ってきたのかを軽く報告した。
南の森と言う言葉を聞いて、おばちゃんはなぜか、びくっとした。
「何かまずいのか?」
意外なおばちゃんの反応に気がついた三蔵が、声をかける。
「いやね、ここのところ、この街を出ようとして、南の森を抜けようとする若者が多いんだけ
ど、帰ってこないのよ。隣の息子さんも先月出ていったきり音沙汰無いみたいだから、行って
帰ってきた人がいるって聞くと、どうしても気になってね」
悪いとは思うんだけどね、という顔をしながら、おばちゃんは話を聞きたそうだ。
「それは心配かもしれませんが、単に連絡していないだけかもしれませんよ。もう少し待って
みては?」
「そうは言うけどね、あの子は、そんなに冷たい子じゃないんだよ。昔から知っているんだけ
ど、約束は必ず守る子だったから、連絡がないのは心配で・・・」
八戒は軽く三蔵の方を見る。
視線は「適当にごまかしておけ」であった・・・
「いや、私たちは特になにもありませんでしたよ。たぶんなにかしらの事情で、連絡だけ遅れ
ているだけではないのでは?」
「まぁ、あんたたちも帰ってきたわけだし、もうちょっと待ってみるかねぇ・・・」
「そうですよ。もうちょっと待ってみるのがいいと思いますよ」
「そうだねぇ・・ところで、あんたたち、夕飯はどうするんだい?ここで食べるのかい?」
「あ、それは・・・」
返事を仕掛けた八戒を三蔵が遮る。
「すまないが、今日は俺の部屋で食べる。7時ぐらいに部屋まで持ってきてくれないか?」
「はいはい、じゃあ、7時に持っていくよ。あのこの分はどうするんだい?」
おばちゃんは軽く上の方を見た。おそらく悟空のことだろう。
「まだふてくされているようだからな。あとで食べにくるだろうから、2人分用意しておいて
くれ。昼も食べてないからな。ものすごい勢いで食うはずだ」
おばちゃんは解ったという顔で厨房に戻っていく。
お互いに茶をすすったところで、一息つく。
「それで?」
三蔵が口を開いた。
「はい、とりあえず森の中には妖怪がごまんといます。もう入れ食い状態ですね。あの森を抜
けないと、都会に出られないこともあって、結構な人が抜けようとするようです。最近集まり
だした妖怪たちがあそこをねぐらにするのも解る気がします」
「で、その格好になったと・・・」
少しむっとした顔で八戒の顔をにらむ。
「ええ、さすがに一人頭30人は大変でした」
そのほほえみからは、とても大変そうだったとは思えないが、あの八戒が上着を傷つけられた
と言うことは、大変な戦闘だったのだろう。
「大変だったのはその後だろうに」
吐き捨てるように三蔵が言う。
「あ、やっぱりばれてました?」
悪びれずに八戒は笑う。
悟空の気持ちを知っているにもかかわらずだ。

つづく・・・





1999 08/26 wrihted by ZIN
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