ある日の午後(八百鼡&八戒)




大きな空、白い雲、まぶしい太陽、すべてが平和に感じる昼下がり。
とても妖怪が暴走し、世界の終わりが近づいているとは考えにくいぐらい気持ちのいい日であった。
「たまには一人で歩いてみるものですねぇ」
八戒は、三蔵たちと旅をするようになってから、珍しく、外を一人で歩いていた。
「三蔵がたばこを買ってきてくれなんて言うもんだから、こういうことになるんですよねぇ」
八戒は自分の手荷物をじっくりと見ながら、
「ふぅ」
と小さなため息をついた。
八戒の手には、大きめのビニール袋がぶら下がっていた。
「たばこはもちろんですが、ブラシにシャンプー、コレは悟浄として、半分以上が食べ物ってあたりに悟空の恐ろしさを感じますね」
近くの売店まで買い物に出かけていた八戒はおなかをすかせて待っている悟空と、たばこごときで時間がかかって、いらいらし始めている三蔵の顔を思い浮かべ、彼らの待つ宿へと帰る途中であった。
「こんなにのんびりと外を歩くなんて、どれくらいぶりだろう・・・もう、あのとき以来、日の当たる道を歩くなんて事はないと思っていたのに」
そういうと、八戒は少し寂しそうな顔をした。
そう、自分はもうこういう世界とは無縁だと思っていた。
自分は、もっと卑しい存在だと思っていた。
彼らと出会うまでは・・・
「いけないですね、つい、昔のことばかり考えてしまう。今は、こうして待っていてくれる人たちがいるというのに・・・少し休んでいきましょう」
八戒は、途中にある茶店に何となく入った。
「こんにちわ」
何気なく声をかけ、適当ないすに座る。
こざっぱりとした雰囲気がここちよいセンスを感じさせる。
アンティークな机が並べられている、それほど大きくはない店だ。
メニューを広げ、近くの店員を呼ぶ。
「紅茶とサンドイッチをいただけますか?」
「はい、こうちゃと・・・!!??」
店員は驚いた表情をすると、さっと後ずさった。
「ん?」
八戒は不思議そうな顔をして店員の顔をテーブルから見上げる。
「あ、やおねさんじゃないですか?」
ざざざざぁぁぁぁ・・・
あっと言う間に後ずさり、やおねは八戒との間を空ける。
「う、たたかう?」
お店の中で戦うのはいやがるようにすがるような目で八戒を見る。
「いえ、今日はやめにしておきましょう。紅該児さんもここにはいらっしゃらないんでしょう?」
いつものように、にっこりとほほえみ、特に危害を加えないことを優しく告げる。
「ええ、ここは私が個人的にやらせていただいているお店なので、紅該児様は滅多にいらっしゃいません」
ほっとしたようにやおねはここが自分の店だということをいった。
「じゃあ、せっかくですからご一緒しませんか?お店も忙しくないようですし・・・」
確かに店はお世辞にも繁盛しているとはいえない雰囲気であった。
客は八戒一人のみ。まだできて間もないのだろう、目立つ看板もないので、仕方なのかもしれない。しかし、この二人にはそれぐらいの方がいいのだ。
「じゃあ、ちょっとだけ」
やおねはぱたぱたと、キッチンに引っ込むと、すぐに自分のカップを持って戻ってきた。
「なんか、不思議な感じですね」
やおねは八戒の向かいに座ると、八戒の顔をじっと見て、そんなことをいった。
「ええ、こないだ戦ったばかりだというのに、あなたとは敵という感じがしないんですよ」
「そういえば、あなたと始めてあったのも、私がお店の店員をしていたときでしたね」
やおねはすでに懐かしさを感じるように、遠くを見つめながら、思い出したようだ。
「今度のお店はご自分で?」
「ええ、なんか、一回ああいう仕事をしてみると結構おもしろいなぁって。それで、紅該児様お着きの薬士をしながら、お店をやってみようかと・・・」
「いいかもしれませんね。あまり私も戦うのは好みませんから、こういう雰囲気は好きですよ」
やおねはちょっと顔を赤くしてうつむいた。
それが、八戒に好きだといわれたからなのか、自分のやっていることをほめられたからなのかは、わからなかった。
「紅茶を入れ直してきますね」
「ありがとう」
やおねは八戒のカップをトレイに乗せると、また奥へと戻っていった。
「ん?そろそろ、三蔵が怒り出す時間かもしれませんね。まぁ、もう少し、ゆっくりしていってもイイでしょう」
八戒が時計を気にしながら一人ごちていると、やおねが奥から戻ってきた。
「お急ぎだったんですか?」
「いえ、彼らの買い物の途中でね・・・」
そういって、八戒は、手持ちの袋を見せる。
ほとんどが、食べ物であることに、やおねは少し驚いたようだ。
「それおひとりで?」
「そんなわけはないですよ」
くすっと笑う
「うちにはやんちゃな男の子が一人いるのでね。育ち盛りなんですよ。たくさん食べてもらわないとね」
「あんまり強くなってしまうと、私たちが困ってしまいますわ」
やおねは複雑そうな顔をしながら、八戒にそう告げた。
「お互いは、今の段階では敵同士ですから、仕方ありませんね。本来、彼らといれば、僕もあなたとこうゆっくりはお話しできなかったでしょうし・・・」
「そうですね。私も、普段はこういう生活を送らせていただいていますが、いざとなったら、紅該児サマのおそばにいなければいけませんし」
「お互い、立場の違いでは苦労しそうですね」
苦笑しながら、八戒は最後の一口を飲み干した。
「そろそろおいとましますね。本当に、うちの大将が、鉄砲をぶっ放しかねませんから・・・」
大まじめな顔で八戒はやおねに三蔵のことを言ってのけた。
「ふふふ、気むずかしそうですものね。三蔵さんは。今度会ったら、また戦うんでしょうね」
少し寂しそうな顔をして、やおねはうつむいた。
「ええ、でも、しばらく今のところから動きそうにないですから、買い物ついででよろしければ寄らせていただきますよ」
「どうぞ、いつでもいらしてくださいね。でも、三蔵さんたちと一緒の時は無理でしょうけど」
「そうですねぇ・・・たぶん、難しいでしょうけど、なるべく彼らがいない時を見計らって来ますよ」
荷物を持ち、代金を払いながら、八戒はまたくることを約束した。
「ええ、またいらっしゃってくださいね。おげんきで」
「やおねさんこそ、それでは・・・」
八戒は、店を出ると、ぐっと、のびをした。
「ふぅ、それにしてもいい天気ですねぇ。こういう日が続くといいのですが・・・」
そして彼は、自分の居場所へと戻っていく。
白い雲、輝く太陽、よく晴れたある日の午後のことだった。

FIN.




1998 11/8 wrihted by ZIN
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