握られた牌に書かれた文字は『夢』と『現(うつつ)』・・・。

そう、この世は常に夢と現の行き来でしかないのだ。


最遊記異聞
清一色x八戒
−−ゆめうつつ−−


「八戒、最近顔色が悪くねーか?」
悟浄のその言葉に八戒は部屋の鏡を覗き込む。
「・・・そうですか?」
多少不健康そうに見えるかもしれないが、普段からあまり強くは見えない面立ちの自分にとってはさほどかわりない顔色に感じる。
「あー、別に自分で気にならねーんなら、いいんだ。なんとなくそう思っただけだからよ」
ひらひらと悟浄は手を振りながら部屋を出て行く。
悟浄は自分を起こしに来たのだ。
確かに八戒が悟浄に起こされるとは珍しいことである。
普段は三蔵一行全員を起こして回るのは今日は起こされる側に回った八戒自身なのだから。

「おはよう・・・ございます」
悟浄が降りて行った後、軽く身支度を整えた八戒は宿の階段を下りた。
宿の食堂にはすでに八戒以外の3人・・・。
悟浄、三蔵、悟空がそろっていた。
「なんだ?不思議そうなツラを下げて?」
おもわずぽかんとしてしまった八戒の顔を見て、三蔵がいぶかしげな視線と言葉を投げてよこす。
「いえ・・・何か、自分以外が全員起きているのって、珍しいなぁと」
ついつい正直な言葉が口について出る。
「フン。いつもお前が早すぎるだけだ」
鼻を鳴らして三蔵が持っている新聞に目を戻す。
「ついでに言うと、今日のお前は遅すぎだ。そこのバカ猿が早く飯をよこせとうるさくてかなわん」
つまらなそうに悪態をつくことも忘れない。
「は〜っかい〜。はらへ〜ったぁ〜〜〜」
チンチンとご飯茶碗のふちに箸をぶつけて音を鳴らす悟空。
どうやらきちんとおあずけを守っていたらしい。
起こしに来た悟浄はどうもこのはらへった攻撃に限界を感じたのだろう。
当初は特に起こしに行かなくてもそのうち降りてくると思っていた八戒がなかなか起きてこず、悟空の待ちきれないやつあたりを受けきれなくなった悟浄に八戒を起こすという重要な任務が回って来たに違いない。
あまりにも簡単に思いつく行動原理についつい口元が緩んでしまう。
「笑ってないでさっさと飯を作りやがれ!いいかげんこのアホの腹減ったにはうんざいなんだよ」
悟浄はいらいらしつつ八戒に朝飯の催促をする。
そう思うなら、自分で作れば良さそうなものであるが、実際過去に当番性にしたところとんでもない犠牲を払うことになったので、現在は多少みんなが我慢することになっても、八戒が飯を作ることになっているのだ。
「はいはい、少し待ってくださいね。しかし、寝坊するとは思わなかったなぁ」
そういいながら、八戒は厨房へと入っていく。

宿。
とは言っても、特に誰かがいるわけではない。
町から少し外れたログハウスに三蔵たちは中間拠点を置くことになったのだ。
ここしばらく紅骸児達の激しい攻撃が続き、玉面公主の側面からの攻撃も多くなってきたため、ある程度の戦略を練る必要が出てきたのである。
自分達が妖怪の攻撃を受けることが多いので、一般の人間に危害が及ぶことを避けるため、生活する基盤が近くにあってその上である程度の距離がある場所をこのログハウスの持ち主から借り受けたのだ。
正確に言うのであれば、ほぼ『買い取った』のであるが。

前日に買い物を済ませておいた材料から、朝ごはんを作り始める。
献立は元々決めておいたのであるが、今から当初の目的どおりに作り始めたら時間がかかりすぎてしまう。
仕方がないので、路線を変えて同じ材料で数分で出来上がるものに切り替えて作ることにした。
経験上、悟空が限界を迎えるほんの少し前ぐらいにできあがる予定である。
「しかし、寝坊してしまうとはねぇ・・・」
確かにここ数日の戦闘で多少は疲れていることを感じていたが、寝過ごすほどとは思わなかったのである。
野宿やジープの上で生活をしたこともあり、その時ですら寝過ごすということはなかったはずなのに・・・。
「疲れというよりは、病気か呪いを紅骸児さん達のどなたかにかけられたのでしょうか・・・」
包丁を抱えたまま少し思い悩む。
色白の顔が多少憂いを帯び、見ようによっては妖艶にもとれる表情を浮かべる。
数秒の後、八戒は朝食の作業に戻った。
「ま、考えても仕方ありませんしね。とりあえずは今日もがんばりましょう」
どうやら鍋も中身を取り出してほしい時間になったようだ。
朝食はもうすぐである。

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2005 01/22 written by ZIN
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