意識がぼんやりとしている。
八戒は混濁した意識の中で自分がどこにいるのかを認識しようとしていた。
確かあの医者が自分の殺した相手だと認識した直後に、後ろから看護婦に薬を打たれたのだ。
あぁ、そうだ。
一瞬の油断が命取りだと三蔵に散々言われていたのに。
悟浄には散々気をつけろと言っていたのに。
自分の頭の中が空白になってしまった。
さすがに。
あの一瞬は油断してしまっても誰も文句を言わないとは思うが。
思考が安定してくるとようやく意識がはっきりし始めた。
まだ生きているようだ。
上半身に重さを感じる。
肌と肌が重なるぬくもりを感じる。
悪くない。
相当長い間やわらかいぬくもりとは離れて生活をしていたのだから。
「んっ・・・んっ・・・あっ・・・」
くぐもった声が少し響く部屋に漏れ聞こえる。
それが自分の上に重なっている女の声だと認識するまでに少し時間がかかった。
相当長い間、や・わ・ら・か・い・ぬ・く・も・りとはかけ離れて生活・・・を?
「・・・ぁ・・・」
「んふっ・・・・あん・・・」
非常に重いまぶたを開けると、ぼんやりとした視界にナースキャップをつけたまま上半身がだいぶはだけた看護婦がいた。
自分に薬を打った張本人である。
「あら・・・んぁ・・・・起きちゃったわね」
くすくすとこみ上げるような笑いをしながら、看護婦は自分の胸を八戒に擦り付ける。
両手の手のひらを八戒の胸にあて、頬をゆっくりと体温を確かめるように胸に当てる。
「くっ・・・」
やわらかい感触が八戒に気持ちよさと安心感を与える。
自分はおそらく監禁されているという状況にもかかわらず、そんな気になってしまうのは、この看護婦からさっきの医者のような邪気が感じられないからなのだろう。
「んふふ。気持ちいいですかぁ?」
猫なで声という言葉があまりにもふさわしい声で看護婦が八戒の肌の感触を楽しむようなうれしそうな表情をしつつ問いかける。
つい、『はい』と言ってしまいそうになるほどのかわいさである。
なぜこんな女の子があの医者の手下なのだろうか。
「私、人肌って大好きなんですよー。先生はちょっとでも気に入らないとすぐ殺しちゃうんですけど、私は動かないようにしておけばもうちょっと楽しめると思うんですけどねー」
あっさりと結構残酷なことを口にする。
その無邪気さとのギャップが逆に八戒に強い恐怖を抱かせた。
「あらあら、ちょっと怖がってますねー。大丈夫ですよー。貴方は先生のお気に入りみたいですからぁ」
んふふとまた含んだような笑いをすると、看護婦は舌で八戒の乳首をなめた。
ざらっ。
「んはぅっ?!」
そのあまりにも人とは違う舌からの感覚に思わず八戒がのけぞる。
「えへへー。私の舌はすっごく気持ち良いでしょー。これで下の方をなめちゃったら、いくら八戒さんでもがまんできなさそーですよねー」
そう言って、胸から首筋へとそのざらつく舌でなぞるようになめまわす。
「んっ・・・くっ・・・はぁうぅ・・・」
八戒の声が自然と高くなる。
確かに自分で得意だと言うだけあって、非常に気持ちが良い。
身も蓋もない話であるが、認めざるを得なかった。
「さてさてー。ご期待のずぼんの中に行きましょうかねー。あ、でも、こっちは先生が先かなぁ・・・」
ちょっと小首をかしげて、ズボンにかけた手を止める。
「んー、やっぱし、もうちょっと美人さんの顔を堪能しようっと♪」
ひょいとおろしかけたズボンをほったらかしにすると、看護婦はずいっと八戒の顔に自分の顔を近づけた。
間近でみると、目が大きく、ものすごくかわいい。
八戒は正直にそう思った。
あまりにも近いので少し照れる。
「んっ・・・」
見とれそうになった瞬間、おもむろに看護婦がキスをしてきた。
当然といわんばかりのディープキス。
舌が少々強引にからめられる。
長い舌。
独特の感触の舌が自分の舌の根元までなぞられ、ゾクッとした感覚に背筋から感じてしまう。
普通のディープではこうは感じない。
相当の手練れだなとつい冷静に分析してしまう。
「ぷはっ」
深いキスを息継ぎもせずにした後、糸を引く涎すらも輝いているような感覚に陥ってしまう。
かるく舌なめずりをする看護婦。
可愛さとその妖艶なしぐさが八戒の劣情を誘う。
「・・・っ」
軽いキス。
たまに舌をつたわせながら軽く触れるようなキス。
八戒の意識が別の意味でぼんやりとしてくる。
これだけ可愛い子に積極的に責められているのだ。
悪い気はしない。
少なくとも好意を持っているようなのだから。

「さて・・・」
看護婦が一通り楽しみ、ようやく八戒のズボンに再度手をかけたところで、扉の向こうに人の気配を感じた。
看護婦はまだ姿も見えないのに、今までの奔放さはどこに行ったのか、びくっとして八戒から降りた。
少しの間をおいて、扉は開かれた。
「紗尾、猪悟能の慣らしは終わりましたか?」
冷たい目の医者は言う。
「は・・・はい。大丈・・・夫・・だと思います。清一色さま」
「んー、いいねぇ。その怯えた目。そそります。また遊んであげますよ。紗尾」
軽く清一色があごをなでるようにすると、紗尾はビクッとして腰が抜けた。
イッてしまったようだ。
そんなにも清一色に魅力が増したのだろうか。
八戒は先ほどの興奮がだんだん冷めるのを感じながら、清一色を見つめた。
「お待たせしましたね、悟能」
静かに八戒に近づく。
この状況になって、ようやく八戒は自分が分娩台にくくりつけられていることに気がついた。
先ほどまでの紗尾の悦戯のために現実を忘れさせられていたが、自分は束縛されていたのである。
「紗尾も私が楽しみたいところはそのままにしておいてくれたようですし、私にも堪能させてくださいね」
くっくっくといやな笑いを浮かべた。
細い目がより細く見える。
「不満そうですね。でも、仕方ないのです。これから貴方は私に散々弄ばれるのですから」
少し間をおく。
「覚悟してくださいね?」
ぺろりと出した清一色の舌は紗尾のざらついたそれより、ずっと赤く見えた。


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2005 01/31 written by ZIN
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