2000 REPLICA MOON ALL Right Reserved
ソラノハテ
第1章:城
第1部:興味本位



「翁、ただいま〜」
『お帰りなさい、シウ』
PCの中の住人、翁は帰ってきたシウ(紫雨)にいつも通り、優しく声をかける。
「はぁ、やっぱうちが一番安心するね。一人になったときはうちなんていやだったけど、翁
がきてくれて、ホント感謝してるよ」
『どうしたんですか?突然・・・』
「いや、なんとなくね。最初に電源引っかけて抜けちゃったときの翁の顔を思い出してさ」
くすくすと笑って翁を覗くと、翁も苦笑していた。
『そんな昔のことをよく覚えていますねぇ・・・』
翁は画面の中で肩をすくめてみせる。
『で、今日はどうでしたか?』
「ん?学校?それとも他のこと?」
シウは自分の鞄を机の横に置きながら、翁に質問の真意を問う。
『もちろん、あなたが最近御忠信な、外の世界を調べることの成果ですよ』
「・・・!」
シウの眼が見開かれる。
『知らないとでも思ったんですか?まだまだですねぇ。ミニPCで調査を進めているようで
すが、あれじゃあ、まだ誰でも知っている範囲の資料の確認にしかなりませんよ。もっとも、
昨日の夜に侵入しようとしていたところはこの城のトップシークレットでしたけど』
苦笑しながら翁はシウのここ最近の行動を見事に言い当てていた。
「知ってて、なにも言わなかったの?」
『ええ、シウも13歳ですし、どこまでできるようになったのか、一度見てみたかった物で
すから』
「試したってこと?」
『ええ』
全く毒がないようなにっこりとしたほほえみを画面の中から返され、それ以上返す言葉がシ
ウには見つからない。
「ふぅ・・・」
ベッドに体を勢いよく投げ出し、大きくのびをしてからため息をつく。
「僕の力じゃ、この世界の外を調べることは無理なのかな?」
顔だけ翁の方に向けて、シウは質問を画面に向かって投げかける。
『そんなことはないと思いますよ。この世界は広い。城の中だけではない何かがたくさん広
がっていることは確かなんです。それを探求しようとする気持ちに絶対無理と言うことは無
いです』
きっぱりとそこまで言い切られてしまうと、シウは逆に不安になってしまう。
「なんで、翁は外の世界のことを知っているの?それともどこかから映像を送っているだけ
なの?」
その質問は翁の顔を暗くさせた。
『そのことは追々わかるようになりますよ。まだ、今は知らなくてもいいことです』
ちょっとだけシウは不満そうな顔をしたが、人には聞いてはいけないことがあることを知ら
ないシウでは無かったので、その質問はそういう物だということで納得し、うち切ることに
した。
「で、僕の能力は翁の目から見て、どんな感じなんだい?外の世界を調べることができそう
かな?」
机のいすに移動し、シウは改めて翁の映っているデスクトップPCの前に座る。
そして、おそらく自分を育ててくれたであろう、画面の相手に最近一番気になっていること
の実現性を聞く。
『今のままではたぶん無理でしょうね』
期待させておいてあまりにもあまりな反応にシウは落胆の色を隠せなかった。
「はぁ、やっぱりね・・・でも、まだまだ調べられそうなことはたくさんあるんだから、あ
きらめるわけには行かないなぁ。なんと言っても、知りたいって気持ちはどうしようもない
し」
『それでも・・・』
翁はそのシウの言葉を聞いてか聞かずか、会話を続ける。
『私のサポートがあれば、それは不可能ではありません』
「え?今、なんて言ったの?」
下を向いていたシウの瞳が画面の翁の顔をまじまじと凝視する。
『外の世界を知ることは不可能ではありません。と言ったのです』
「だって、今『無理』って、言ったばっかりじゃん」
『それはそうですが、ちゃんと注釈で『今のままでは』と付けたじゃないですか。それは補
っていけるレベルの話で、私のサポートがあれば大したことではないということです』
「そういうことなんだね。じゃあ、早速いろいろ調べてみよう!」
『ちょっと待ってください』
言葉も終わらないうちに翁の映っているマシンを使い、資料を検索しようとするシウを翁は
止めた。
「なんだよぉ、手伝ってくれるんじゃないの?」
『手伝いますよ。ただ、まず確認したいことがあります。この調査、それから、今後の行動
はたぶんシウの人生を大きく変えることになると思います。それでもイイですか?私がサポ
ートをするということはそれだけ本気でないとだめなんです』
「・・・」
思ったよりもことの重大さがかかっているような翁の雰囲気にさすがのシウも多少たじろぐ。
『それから・・・このことは調べるだけではないです。知りに行くのです。その違いがおわ
かりですか?』
「どういうこと?PCで秘蔵の資料を見るとかそういうことじゃないの?」
『違います。それはあくまでも『調査』の一つでしかありません。それではだめなんです。
用意された知識をただ読むだけではこの世界をきちんと理解することはできませんなぜなら
この世界は・・・この城の外は***だからです』
「え?翁、何か聞こえなかったんだけど?」
とぎれて聞こえなかった言葉にシウが不思議そうな顔をすると、翁の顔色が変わった。
『ハッ!しまった・・シウ、ネットワークから物理的に線を抜いてください!早く!』
そのせっぱ詰まった翁の声にシウはあわてて後ろのネットワークコードを抜く。
電力すらもネットワークから供給されているPCは即座にバッテリーモードに切り替わる。
「どうしたの?突然言葉が聞こえなくなる部分が出たり、ネットワークを切り離したり・・
・」
不思議そうに聞くシウに翁は恐ろしいほどの冷静な声で説明を簡潔に答える。
『よく聞いてください。この世界、正確には城の中は一種の隔離された世界なんです。シウ
はどこまで知っているかわかりませんが、この世界にはここの城のような場所が何個もあっ
て、それぞれが独自の文化を築いています。それは、それぞれの文化が他にあるということ
を知ることすらトップシークレットなのです。だから、さっき城の外のことを言おうとした
瞬間に妨害音がかかってしまったのです。一度ならそんなに躍起になることは無いでしょう
が、そうそう話を続けるわけにもいきませんからね。一度ネットワークから切り離して、ロ
ーカルオンリーでお話しすることにしたわけです』
「それって、ひょっとしてやばいことに首つっこんでるって、言ってる?」
おそるおそる翁に自分がこれからやろうとしていることの確認をする。
『はい、この世界そのものに疑問を持ったことに他なりませんからね。それは秘密にしてい
る以上、快く思わない人たちもいると言うことです』
「・・・マヂ?」
『おおまぢです』
その翁の言葉を反芻しながらシウはしばらく考え込んだ。
自分の存在、翁の存在、それを知るためには少なくとも外の世界を知る必要がある。
それは間違いない。
ただ、そのために今と違う生活になってしまう可能性があると翁は言っている。
ひょっとするとこの家に住んでいられなくなるかもしれない。
「ちょっと考えさせてくれる?」
『かまいませんよ。私にとっては特に急ぐ話ではありませんから。それこそ、シウの気持ち
の問題ですからね。あ、そうそう、モニタを落とすときはまたネットワークにつないでおい
てくださいね。バッテリなくなっちゃうんで』
話自体の重さを感じさせないような翁の言葉遣いに思わず苦笑するシウであったが、その言
葉は自分の気持ちを和らげる物であると感じ、素直にPCをネットワークにつなぎなおした
後、モニタの電源を落とした。
「知ることと、調べること。変わらない生活と、真実・・・か」
シウは天井を見つめた。

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