その日は朝から悟浄はそわそわしていた。 「ん?悟浄、なにか、今日落ち着きがないんじゃないのか?」 三蔵が適当にたしなめる。 「悟浄なんて、いつも落ち着き無いじゃんよぉ」 悟空がいつものようにちゃちゃを入れるが、悟浄は「あぁ?」と、上の空だ。 「いったいどうしたんですかネェ」 八戒までもが、人ごとのように悟浄の状態を観察する。 『オマエのせいじゃねぇか・・・』 悟浄はそんな八戒をふてくされたような視線でにらみながら、口をとがらせた。 たとえ、そんなことをしたとしても、八戒は当然のごとく、どこ吹く風といわんばかりのいつ も通りの笑顔をみんなに振りまいている。 『こっちは気が気じゃねぇってのに、あいつはなんであんなに平気なんだ?』 今朝のベッドの中での八戒とのやりとりを思い出して、なおさら、今の八戒の態度を危惧する 悟浄であった。 今思い出しても思わず赤面してしまう。 『今晩僕はアナタのモノですから。バレンタインですからね』 事実上の『好きにしてもらってかまいません』宣言は今まで自然に自分をリードしてきた八戒 にしてみれば、降伏宣言にも等しい言葉なのだ。 でも、今現在の八戒の態度を考えると、それも定かではないように感じる。 『やはり、今朝の言葉はおれをぬか喜びさせるためのからかいだったのか?』 つい、八戒の普段とあまりにも変化のない態度を見ていると、そんな事まで考えてしまう。 それでは自分が、八戒を信じていないのとおなじではないか? いろいろ考えれば考えるほど、悟浄の考えは良くない方向へと行ってしまう。 そんなあれこれ考えて、百面相をしている悟浄を見て、また八戒が『くすり』と笑った。 「悟浄は今日どうしちゃったんだ?一人で喜んでみたり、悩んでみたり、驚いてみたり」 さすがの悟空も挙動不審な悟浄の表情に危惧を抱き始めた。 「そんなんじゃネェよ」 何がそんなんなのかは、わからずも、ついそんな言葉が口に出てしまう。 「なにがそんなんじゃねえんだよぉ〜」 いつもならすぐにムキになる悟空とのやりとりも適当に済ませ、悟浄は席を立った。 「ちょっと、はずすわ」 八戒はその気持ちを知っていたが、あえてほかの2人の前ではなにも表に出さないようにして いた。 悟浄の気が気でないのは百も承知である。 つづく |