ハッピーバレンタイン(八戒&悟浄)前編



その日は朝から悟浄はそわそわしていた。
「ん?悟浄、なにか、今日落ち着きがないんじゃないのか?」
三蔵が適当にたしなめる。
「悟浄なんて、いつも落ち着き無いじゃんよぉ」
悟空がいつものようにちゃちゃを入れるが、悟浄は「あぁ?」と、上の空だ。
「いったいどうしたんですかネェ」
八戒までもが、人ごとのように悟浄の状態を観察する。
『オマエのせいじゃねぇか・・・』
悟浄はそんな八戒をふてくされたような視線でにらみながら、口をとがらせた。
たとえ、そんなことをしたとしても、八戒は当然のごとく、どこ吹く風といわんばかりのいつ
も通りの笑顔をみんなに振りまいている。
『こっちは気が気じゃねぇってのに、あいつはなんであんなに平気なんだ?』
今朝のベッドの中での八戒とのやりとりを思い出して、なおさら、今の八戒の態度を危惧する
悟浄であった。
今思い出しても思わず赤面してしまう。
『今晩僕はアナタのモノですから。バレンタインですからね』
事実上の『好きにしてもらってかまいません』宣言は今まで自然に自分をリードしてきた八戒
にしてみれば、降伏宣言にも等しい言葉なのだ。
でも、今現在の八戒の態度を考えると、それも定かではないように感じる。
『やはり、今朝の言葉はおれをぬか喜びさせるためのからかいだったのか?』
つい、八戒の普段とあまりにも変化のない態度を見ていると、そんな事まで考えてしまう。
それでは自分が、八戒を信じていないのとおなじではないか?
いろいろ考えれば考えるほど、悟浄の考えは良くない方向へと行ってしまう。
そんなあれこれ考えて、百面相をしている悟浄を見て、また八戒が『くすり』と笑った。
「悟浄は今日どうしちゃったんだ?一人で喜んでみたり、悩んでみたり、驚いてみたり」
さすがの悟空も挙動不審な悟浄の表情に危惧を抱き始めた。
「そんなんじゃネェよ」
何がそんなんなのかは、わからずも、ついそんな言葉が口に出てしまう。
「なにがそんなんじゃねえんだよぉ〜」
いつもならすぐにムキになる悟空とのやりとりも適当に済ませ、悟浄は席を立った。

「ちょっと、はずすわ」
八戒はその気持ちを知っていたが、あえてほかの2人の前ではなにも表に出さないようにして
いた。
悟浄の気が気でないのは百も承知である。

つづく

2000 02/13 written by ZIN
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