2000 REPLICA MOON ALL Right Reserved
ソラノハテ
第2章:龍街
第1部:遭遇

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どさっ!!
「いったぁぁぁぁ!!」
シウはダストシュートから一気に外の世界に放り出された。
・・・
いや、ゴミの中に放り出されたと言うべきか。
「ホントにダストシュートなんだねぇ」
思わず素でつぶやいてしまう。
生ゴミのゴミ捨て場でないことが唯一の救いだろうか。
燃えるゴミの一時集積所らしく、段ボールや、紙屑が殆どである。
おかげでものすごいスピードで長距離を落ちてきた割には、けがもしなくてすんだのであ
るが。
ぽふぽふと、ほこりを払い落として、ゴミをかき分けるようにして通用口のようなところ
から外に出ると、そこは薄暗い電灯のみがついている路地であった。
「ここは?」
『コレが城の外、「龍」ですよ』
Arkθの中からスピーカ越しにくぐもった音声が聞こえる。
ダストシュートを落ちてくるときにイヤホンははずれてしまったようだ。
改めてPC本体からイヤホンを引き出し、翁との会話を再開する。
PCを開けてみるが、特に損傷もないようだ。
画面に翁の姿が鮮明に映る。
「あんがい普通なんだねぇ」
「もっと特別なモノだと思っていました?」
「いや、別に未来都市を思い描いていたわけじゃないけど、それでも、なにか有るとは思
っていたんだけどなぁ」
「何かって言うと?」
「ん〜、なんて言うか、こう、外に出たぞっていう実感があるのかな?って思っていたか
らさ」
「そうですね、それなら、とりあえず上を見上げてみるというのは々でしょうか?」
「うえ?」
「そうです」
言われて見上げてみると、満天の星空であった。
シウが組織に踏み込まれたのは学校が終わって帰ってきてからの話だから、夕方のこと。
それからひと騒動有って、落ち着いた時間を考えれば、もう夜中なのだ。
「へぇ・・・・・」
感嘆のため息をもらし、しばしの間その星々に見とれるシウ。
資料でしか見たことのない星の輝き。
雲がないこともあり、龍でも滅多に見られないほどの星の光にシウは素直に感動した。
「これだけでも十分外に出た意味はあったなぁ」
「そうですか?」
「うん、だいぶ満足」
後ろにハートマークがつきそうな笑顔でシウが答える。
その笑顔に翁の顔も思わずほころぶ。
「安上がりな満足度だネェ・・・」
そんな二人の会話にいきなりシウの背中越しに声がかかる。
シウはびくっとしてざざっとその声の主から遠ざかると、Arkθを閉じ、身構えた。
戦闘経験はないが、多少の抵抗をするか、逃げるかをしなければいけないだろう。
シウは相手が自分を追いかけてきた組織であることの可能性を考え、小さく舌打ちした。
「おやおや、そんなに身構えなくてもいいよ、おぼっちゃん?」
いささか拍子抜けのするような、小馬鹿にした表現にシウの緊張も多少ゆるむ。
「なんだよ、その『おぼっちゃん』っていうのは?」
「だって、そうじゃない?この龍街でぼんやり空を見つめているなんて、よっぽどの馬鹿
か、世間知らずのおぼっちゃんって、相場は決まっているとおもうけど?」
声をかけてきた女の年齢はさほどシウと離れていないように見える。
袖無しのワンピース、スカートの丈は短いが、下にスパッツをはいているようだ。
スニーカーのデザインはそこそこおしゃれだが、機能性を第一に考えられているようだ。
腰に手を当てて、びしっと指さし、言い切るその女はこの世に迷いなんて存在しないと言
わんばかりの雰囲気を持っていた。
「失礼な人だなぁ。まだ外に出て間もないんだから、勘弁してほしいんだけど・・あっ!」
言ってしまってからシウは口に手を当てたが、もう遅かったようだ。
その女はつかつかとシウに近寄ると、下から上までなめるようにシウの体全体を見回した。
「へぇ・・・アンタ、城から来たんだ・・・へぇ・・・」
先刻からの言葉の雰囲気からして、敵ではなさそうだが、味方と決まったわけではない。
そのことをふまえて、シウはまだ警戒を解いてはいなかった。
Arkθを抱えて、その女の次の言葉を待つ。
「ん?・・・そのPC、Arkθじゃない?」
おもむろにシウの持っているPCに興味を示すと、それを取り上げた。
「あぁ・・僕の・・・」
「こんなところでお目にかかれるなんてね。伝説のマシン、Arkθ。採算を度外視して作
成された最初で最後の理想型ノートPC世界で城の数だけ配布されたと聞くけど、なんで
こんな物をきみのようなおぼっちゃんが持っているの?さっきの言葉からすると、城の中
にいたみたいだけど、それもだいぶ気になるね」
Arkθを片手で持ってぱたぱたとまるでうちわのように仰ぐその女は不躾きわまりない。
しかしながら、生理的に嫌みなわけでもないのはその女の性格による物だろうか?
「僕にはシウと言うちゃんとした名前があります。おぼっちゃんというのはやめてくださ
い。それにあなたは何なんですか?さっきから、イロイロ知っているようなそぶりですけ
ど、僕から見れば、僕のことを危ないと言うよりは、自分こそ、そんな格好で夜中にこん
なところをほっつき歩いて、危ないんじゃないですか?女の子の一人歩きにしちゃ違うよ
うですけど」
「シウ・・・ね。わかったよ次からはそう呼んであげる。僕の名前はラオ。この龍街で情
報屋みたいなことをやっているんだ。ここへ来たのはちょっとした調査のためなんだけど
ね。コレでいいかな?」
「別に僕はどうでもいいですけど・・・」
「きみ、自分で聞いといて、そりゃないんじゃない?」
「僕の名前はシウ。たった今、そこのゴミ処理場につながっている城から脱出してきたと
ころさ。外の世界を見てみたくてね」
「それだけのために外にでてきたの?」
「そう、それだけ」
あっさりと認めるシウの言葉にラオは目を見開いて驚く。
「きみは馬鹿かい?イイじゃない、城の中でぬくぬくとしてれば。幸せな人生送れたんだ
よ?なんでわざわざ外に出てきたの?わっかんないなぁ〜」
ほとほと困り果て、信じられない物を見たようなそぶりでラオは眼鏡を外した。
そしておもむろにつながっているジャックをこめかみから引き抜く。
「?!」
その行為にさすがのシウも驚いた。
「い・・・いまなにを?」
「あ、ああ、これね・・・コレは・・・」
『ほぉ・・・サイバノイドですか。これは珍しい』
眼鏡と反対側に持ったArkθからの声にラオの説明が止まる。
いぶかしげな視線と供に、Arkθを開けると、そこには翁が相変わらずの笑みを浮かべてた
たずんでいた。
「翁!なんで出てきたのさ!」
シウはしまったという顔をするが、翁はさほど重要なこととは考えていないようだ。
「オキナ?あのオキナなの?あの伝説の?!」
ラオはシウの叫んだ名前に聞き覚えが有るようだ。
「伝説かどうかは知りませんが、そういえば、私は昔から翁と呼ばれていたような気がしま
すねぇ」
はっはっは。と適当な笑いをするが、その目は相変わらず笑っていない。
「すごいや、こんなところで、Arkθだけでなく、伝説のオキナと、出会えるなんて。こん
なところじゃ、何だから、家に来ない?なんか聞きたいことが沢山できちゃったし」
シウの胸元にArkθを戻すと、ラオはさっさと先に立って歩き出す。
「どうする?」
シウは翁に意見を求める。
「いいんじゃないですか?さしあたって、急ぐ目的もないんでしょ?」
「そうだね。ゆっくり進むのもいいよね。まだ冒険は始まったばかりだし」
「でも、あんまりゆっくりはさせてくれないそうですよ」
気がつくと、ラオはすでに100メートル以上先に進んでいた。
「早く来なよ〜!なにぐずぐずしてんの?!」
「ホントだ。僕たちがついてこない可能性があることは、考えなかったのかな?」
思わず苦笑する。
「そうですね・・・あの子は面白くしてくれそうですよ」
「・・・ん?」
最後の方をきちんと聞き取れずにシウは聞き返すが、特に翁は何も言わなかった。
いい加減走って追いつかないと追いつかなくなりそうだ。
シウはArkθのパネルを閉じると、小脇に抱えて走り始めた。
「ラオー!まってよぉ〜」

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